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英雄王の再来
第8騎 帰還
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第8騎 帰還



アトゥス王国暦358年5月5日 昼
王都シャフラス アイナェル神殿 中庭
修道騎士 ユリアステラ・イェニ


 花の匂いが漂う。甘く、鼻の奥を擽る様に思えるもので、人によっては憐憫さえ感じるかもしれない。色は、最高級の絨毯のように多彩な色を見せ、心を華やかにさせる。そんな場所に私は身体を横たえ、白い修道服を甘い風に靡かせていた。

思いを馳せる・・・あの人に。甘美の花々に身体を横たえた一時間前、私は修道院の院長に呼ばれ、彼女の私室へと足を運んだ。窓に背を向け、椅子に座り、こちらに悲愴の表情を見せている彼女は、私が部屋の扉を完全に締め切った事を確認する。そして、年相応に皺が目立つ頬を動かして、まだ他の者に話してはいけないという“秘密の話”を始めた。

「ユリアステラ、ノイエルン殿下が亡くなった事は本当のようだわ。3日ほど前に伝えられた情報は間違いではなかったの。」
可愛らしい、そんな言葉が似合う初老の女性は、目を伏せ、悲しみに肩を震わせる。彼女の悲しみは、私の比ではないだろう。アトゥス王国の3人の兄弟たちは皆、アイナェル神殿を住まいに育ってきたのだ。当然、院長とは毎日のように顔を合わせ、彼らは“祖母”の様に、彼女は“孫”のように仲を通わせる。

「ミティマ様・・・お気を確かに。」

「ごめんなさい。あなたを呼んだのは、慰めてもらうつもりではないのだけど。あの可愛らしくて、賢かったあの子を思うと・・・。」
そこでまた、彼女の頬を涙が伝った。開いている窓から燦々とした太陽の光が射しこみ、部屋を明るく照らしている。暖かい風が吹き抜け、白く軽やかな紗幕を揺らす。私はそんな彼女の手を取り、優しく包む。悲しみに震え、冷たくなっているその手を。

「・・・泣かないで下さい。ノイエルン様も、ミティマ様が泣いておられると知れば、きっと辛くお感じでしょう。“生きる者の義務は、死々たる者を尊ぶ事にある”、亡くなった者を嘆き悲しむ事よりも、その者の生きた航跡と、成し得た功績を尊ぶべきだと、ネストイル王も仰っているではございませんか。」

「そうね、ごめんなさい。」
彼女はそう言って、深く深呼吸をする。ゆっくりと、その思いを心の奥深くに吸い込むように。そうして、2度3度深呼吸した後、彼女はいつもの落ち着いた老婆の顔を見せた。

「・・ごめんなさいね。ユリアステラ。」
もう一度、落ち着いた声で謝罪する。

「いえ、お気になさらないで下さい。ミティマ様の御心を鑑みれば、当たり前のことです。」

「ありがとう・・・。あ、それでね。あなたを呼んだのは、エル様の事でなの。」
心に、少しばかりの緊張が走る。心配でならなかったあの人・・私が心配するなど、恐れ多い事だとは分かっている。それでも、あの人に思いを馳せる時間
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