第十六章
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第十六章
「いや、御免御免」
すぐに何もなかったように言葉を取り消す岩清水だった。
「何でもないよ」
「何でもないって?」
「そうだよ、教科書なんて会社にある訳がないよね」
またしても演技であったがそれには誰も気付かない。小笠原もだ。
「そんなの」
「うん、ないよ」
また言葉を返す小笠原だった。
「会社だからね。ここは」
「それにだよ」
何気ないふりを装った言葉は続く。
「教科書がゴミ箱にある筈ないしね」
「いや、岩清水君わからないよ」
「それはね」
ここで総務部の周りの人間が岩清水に言ってきた。
「実際そうしたことってあるよ」
「あるんですか」
「ほら、あれだよあれ」
「そう、あれよ」
皆言いながらその顔を小笠原に向ける。その目は非常に冷たく鋭いものであった。それはまさに氷の刃と言うべきものであった。
「いじめとかする奴いるかも知れないよ」
「人の教科書をゴミ箱に捨てるとかね」
「そうする人間って最低だけれど」
既に皆、総務部の人間も小笠原の噂を聞いていた。それは岩清水が流したものであるのはその本人だけが知っていることである。
だがその本人は何も知らない顔のままで。言ったのだった。
「そんな人いる筈ないじゃないですか」
「だから隠れてするから」
「そういうことは」
皆まだ小笠原を冷たい目で見続けていた。
「だから最低なんだよ」
「卑劣ね」
「そうですね。若しそういう人がいたら」
岩清水の何でもないといったものを装う言葉は続く。
「絶対に許したらいけませんよね」
「うん、本当にね」
「何があってもね」
これは些細なことだった。だがこの日から小笠原は社内で陰湿に村八分にされだしていた。彼は完全に孤立してしまっていた。
そうしてだった。岩清水が自分のサイトで公表した元いじめっ子達の家には連日連夜サイトで情報を得た人間が糾弾に来た。家の前で抗議しその壁に落書きをしていく。
「人殺し!」
「いじめをして楽しいか!」
「この屑!」
「息なんてするんじゃねえぞ!」
こうした罵声だけではなかった。当然ながら近所からも冷たい目で見られ家族も被害を受けた。また当人達も実際の生活に支障が出ていた。
それぞれの職場や学校まで公表された為そこにも抗議の電話が殺到し嫌がらせが来た。兄弟達にもそれは及びやがてどの家も崩壊し彼等も職場や学校にいられなくなった。後には落書きだらけの壁を持つ廃れた彼等の元の家が無惨な姿を晒しているだけであった。
そしてこの日岩清水は同志達と共に修和高校の前にいた。そこから抗議のデモを行っていた。
「古館先生答えなさい!」
「教頭先生、いるのはわかってるんですよ!」
攻撃するのは古館だけではなかった。宮崎もだった。
「貴方は
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