第一部
第一章
虚実から現実へ
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列を成すみんなの前に置いた。美羽も同じように、俺が移動させた木箱の下に置かれていた木箱に手を伸ばし、俺の横に移動させた。その間、列に並ぶみんなはその様子じーっと眺めては待ち遠しそうに微笑みを浮かべている。
「もう少しだから、みんな待っててね。」
美羽の言葉に、みな元気そうに各々が返事を返していた。
老若男女の誰もが順番を守り、列に並ぶ。人の問い掛けに笑顔で返事を返す……この街にあるべき光景がここにだけ、本当にここにだけはあった。
そんな光景を見せられては、さっきまで心の奥底で燻っていた蟠りもどことなく和らいでいっちまうような、そんなほんわかとした暖かい、ハッキリとしない気持ちで満たされていく。
……まったく単純なもんだ。
俺は誰にも聞こえないほどに小さな小さなため息をひとつだけつく。
さっきまではイブと別れたことであんなに心が荒んでいたのに。上流階級の連中の非情な行いにひどく立腹していたのに。今は小さな女の子やおじいちゃん、おばあちゃん、いつもの集まりに囲まれるだけでこんなに心が落ち着いているんだからな。隣に美羽がいるこの状況に、ひどく安堵感を感じているのだから。
「……」
口元が自然と綻んでいるのがわかった。
ミーハーなもんだよな、俺も。また明日になれば、同じようなことを繰り返しているんだろうと思うと、なんだか馬鹿らしくなってきちまう。
そうは思っても、やっぱりこの世界への希望は捨てられるものじゃなかった。だから俺は今、ここでこんなことをしているんじゃないかなとか、この世界が俺の……あの夢の世界のような姿に戻る日が来るんじゃないかなーとか、そんなふうに思うから俺はあの世界の虜でありながら、この世界を捨てられずに日々を奮闘しているんだと。
そんな俺らしくない、夢に溢れた想いに満たされた。
「……さて。」
俺は早々と木箱の蓋を取り外そうと取っ手を掴むが、雑な封の仕方だったのだろう。なかなか蓋は開かない。ちょっとやそこらの力では簡単には開かないようだが、ふっと目一杯の力を込めて引っ張れば弾けるように上蓋が飛散した。
その様子を見ていた美羽も『うーんうーん』と唸って蓋を必死にこじ開けようとしているが、どうにも美羽の方は開きそうにない。確かにこの蓋の封は固い。幼女モドキの力じゃこの蓋は無理か……。
「かしてみろ、美羽。」
「え?」
俺は美羽が引っ張っている横の取っ手を思い切り引っ張り、ちょいと壊し開けた。
「ほら。」
取れた取っ手を横に放り投げる。美羽は少しあっけにとられたような表情で。
「恭夜くん、力は強いよね。」
「……んまぁ、幼女に負けるほど力は弱くないけd」
ゴッ……
鈍い激痛が俺の頭部に響いた。
「……ッ!」
「ボクは幼女じゃないって何度も言ってる!」
美羽が片手で箱の中身を整理しながら、俺の頭部をぶん
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