第一部
第一章
虚実から現実へ
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っても俺ら下等人種の生活するこの街のことだが、この街自体が生の営みを続けていくには、もう何もかものキャパシティが間に合わなくなっているのが現実の示すところなのだろう。
病原菌の蔓延と強酸の雨が降り注ぐ世界。その酸性雨から身を守るための住居群はこれ以上増やせない。でもまだ住居を求めている人はまだまだ無数に、数えきれないほどいる。さらに食料の配給のようなものはほぼ皆無で、調達能力のない人間は死ぬのを待つか、自ら命を断つ他にはない。どんな手を使ってでも食料や水は自力で調達しなければならないのに、その食料の供給源すらすでに枯渇し始めている。つまり、簡単に食料を手に入れるすべはなくなってくるわけで……。
法というものの拘束力など遥か昔に消え、今や無法状態のこの世界では、自力で食料を調達している人間を襲い、細々と延命している人間の方がむしろ多いこの現状で、人は何が正義なのだと知りえるのだろうか。高い地位につく賎陋なゴミ共は全ての貧賊な民を蹴落とし、その貧賊な民は同族から全てを奪いあいながら明日すらも危ぶまれる人生を只管、明日を見るためだけに足掻く。多くの人間が他人を愛し尊重し共に生きるという、この人間らしい心を失ってしまったこの世界に未来はあるのかと問われれば……。
「……」
もう限界だろうということは、多分誰もが薄々感じつつある。そんな気がした。
そんな思いに脳内を支配されながら俺は大通りから逸れ、一本の細い路地へと入った。細々とした路地裏にはゴミやら死体、肉片に遺骨が散乱しているが、一つ一つを避けながら俺は路地を進んでいく。焦げ茶色に錆びきり、電気すらも通電していない使い物にならなくなった換気扇の横を過ぎ、茶色に変色した苔がびっしりと生える階段を下り、小さな小屋が乱立する小さな通りを抜けたこの先。先ほどまでの死に瀕した街の光景から一転、小さな広場に集う大勢の人だかりが見えた。広場に集まる多くの人間は住居群、大通りに伏していた貧賊な民と同じようにやせ衰え、誰もが今にも倒れそうな風貌をしているが、みなどことなく和らいだ雰囲気を感じさせる。みんながみんな列をなしているわけではないが、そこに集まる多くの人々はきっちりと自分の番を待っているかのように列を形成していた。
もうこんなに集まってるのか……。
俺は気怠いままだった足腰に鞭打ち、足早に人だかりの元まで小走りで向かった。
「ん?」
「ありゃあ、恭夜くんじゃないか?」
「……おお、そのようじゃな。」
彼らの近くまで走り寄れば、みながみな俺のことを見るなり笑顔で出迎えてくれる。この世界の唯一の良心……というより癒やしの瞬間だ。
「みんな、早いですね。」
俺は列の横を沿って行くようにみんなに語りかける。
「おにーちゃんおそいよ!もうおねーちゃんは来てるんだよ!」
「お、そいつは悪かったなミレア。今
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