第百六十五話 両雄の会同その十
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「この度のことは」
「全くじゃ」
「そうですな、どうにも」
「ふむ。ここは」
「ここは?」
「直に話をするか」
こう言うのだった、顕如は自ら。
それは信長も同じだった、彼もだった、
家臣達にだ、こう言うのだった。
「はじめてこの目で本願寺の法主を見たが」
「見事ですな」
「実に」
「伊達にあれだけの寺を背負ってはおらぬわ」
己に比肩するものさえ見て言う信長だった。
「大きな者よ」
「殿がこれまで戦ってきたどの者よりもですか」
「顕如殿は」
「うむ、大きいわ」
こう言うのだった、顕如を見て。
「実にな。しかもな」
「しかもですか」
「器が大きいだけでなく」
「いい目をしておるわ」
信長もこう言うのだった、相手の目を見て。
「確かな僧じゃ」
「ですな、澱んだどころのない」
「実によい目です」
「間違いではないのか」
信長はこの言葉も出した。
「我等を襲ったことは」
「そのことですか」
その襲撃の時に実際にいた九鬼が応えてきた、その目は鋭いものになっている。
「ですがあれは」
「間違いなかったか」
「その衣は灰色でした」
紛れもなくだ、その色だったというのだ。
「本願寺の色でありました」
「左様か、それではじゃな」
「はい、本願寺かと」
今目の前にいる者達がだ、襲って来たというのだ。
「その時のことははっきりと覚えていますが」
「左様か、わしが見たところな」
「あの者達はですな」
「法主はな」
特にだ、彼はというのだ。
「そうは見えぬ」
「左様ですな、確かに」
九鬼も顕如を見る、そのうえで信長に答える。
「あの御仁の目は」
「確かじゃな」
「お言葉ですが殿のお目に似ているかと」
「わしにか」
「進む道は違いますが」
そして武士と僧侶の違いがある、両者の歩む道が違うのは当然のことだ。だがそれでもだというのである。
「同じものを感じます」
「ふむ、わしと似た目か」
「そう思いますが」
「言われてみればな」
信長はここで己の目を思い出した、鏡を見る時に見るその目をだ。
「似ておるやもな」
「確かな目ですな」
「うむ、確かでな」
そしてだというのだ、これは信長自身の言葉である。
「意志の強さも伺えるわ」
「それを見ますと」
「わしは謀を否とはせぬ」
信長も謀略を必要とあらば使う、伊勢一国を一兵も出さず手に入れた時は家臣達にかなり前から銭も人も使って調略をさせてきた。
だが、だ。それでもだというのだ。
「しかし使っていい謀と悪い謀がある」
「その二つがですな」
「民を使ったり襲ったりしてその民達を巻き込む様な謀をな」
それこそがだ、まさにだというのだ。
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