第百六十五話 両雄の会同その九
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「顔立ちがよいですな」
「気品もあります」
「しかも人相も悪くありませぬ」
「むしろどれもがいいです」
「覇道を歩んでいる目じゃ」
顕如は信長の目も見て言う。
「まさにな。しかし」
「それでもですな」
「あの目は」
「よい目じゃ」
こう言うのだった、信長のその目を。
「覇道でも血塗られた覇道ではない」
「覇道も様々」
「その中でもですな」
「よい覇道じゃ」
そしてだ、その覇道がどういったものかというと。
「民を守り天下を泰平にすることを目指しておるな」
「それではですな」
「門徒達を攻めたことも」
「考えられぬ」
こう言うのだった。
「とてもな」
「ではあのことは」
「長島でのことは」
「民を襲い田畑を焼いたそれは」
「あのことは」
「わからぬ」
今は相手を前にしているので無作法はことは出来ない、それで首を傾げさせるといった砕けた動作はしなかった。
だがそれでもだ、こう言うのだった。
「しかしとてもじゃ」
「そうした者ではありませぬな」
「間違っても民を害する様な」
「そうした者ではありませぬな」
「織田信長は」
「うむ、違う」
全くだというのだ、そのことは。
「我等とことを構えるなら我等を直接攻めてくる」
「民を襲うのではなくですな」
「そうしてきますか」
「他の者達もじゃ」
織田家の家臣達も見た、信長の後ろにいる彼等を。
加賀に紀伊を加え遂にその石高は一千万石を超えた、それだけに家臣の数も多い。だがその家臣の殆どがだった。
一人を除いてだ、こう言うのだった。
「あの妙に青が似合わぬ老臣以外はいい目をしておるわ」
「あれは松永久秀です」
雑賀はその老臣の名を顕如に囁いた。
「あの者こそが」
「あの悪弾正か」
「はい、しかしあの者以外はですな」
「うむ、よい目をしておる」
そうだというのだ。
「誤ったことはせぬな」
「では誰がしたのでしょうか、長島は」
「あの者しか考えられぬがな」
松永を見てだ、顕如は言った。
「しかしな、それでもじゃ」
「松永がおるのは大和です」
長島がある伊勢ではない、松永がいる国は。
「大和の信貴山に城があります」
「長島から遠いのう」
「とても策を仕掛けられる距離にありませぬ」
「そうじゃな。ではどうしてもじゃ」
「長島のことは織田家がしたとはですか」
「考えられぬ」
ここでまたこう言った顕如だった、道中だけでなく。
「とてもな」
「左様ですか」
「うむ、余計にわからぬ様になった」
そうなったとまで言うのだった。
「これはな」
「どうにも面妖ですな」
雑賀もこの言葉を出す。
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