第5章 契約
第91話 夜の翼
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い。例え、相手を討ち果たしたとしても、殺された父親が帰って来る事はない、と頭では理解していたとしても、感情がそれを押し止めて置く事が出来るとは限りません。
それに何より、そんな負の感情に染まる彼女を俺が見たくは有りませんから。
「王太子殿下は杖を持たないのですかな」
飽くまでも余裕のある振りを続けて居るのか、それとも、本当に余裕が有るのかは判りませんが、それでも少し揶揄するような口調で、そう問い掛けて来るアルマン。その視線の先には、先ほど俺が放り出した状態。大地の上でぼぅと淡い魔法の光を灯したままの指揮者のタクト風の魔術師の杖が転がって居る。
しかし、
「そのような心配は無用」
非常に落ち着いた雰囲気で答えを返す俺。死合いを前にした高ぶった気を押し隠したような雰囲気などではなく、本当に何でもない事。ごく日常的な事を為そうとしているかのような雰囲気で。
ひとつ、大きく呼吸を吐き出す俺。その時、真冬に相応しい大気が、俺の吐き出した吐息によって白く色を着けた。
そして更に続けて、
「ガリアの王太子と有ろう者が地に落ちた杖を拾って、再び使用するような真似が出来る訳がない。まして、生成りを相手にするのに、魔術師の杖が必要な程度の術者と言う訳でもない」
それに、そもそも俺の魔法。仙術を行使するのに、魔術師の杖は必要ありませんから。
徒手空拳。一歩前に出たものの、その場でただ立ち尽くすだけの俺に向け、五メートルほどの距離を一瞬で詰めるアルマン。
その動きは正に達人クラス。人としては最高レベルの剣士であるのが一瞬で判断出来る動き。
しかし!
初手は刺突。軽く右に上体を動かすだけで、剣風が頬を打つだけに止め、
僅かに手首を捻る事に因り続けて繰り出された袈裟懸けの一撃は、左足を半歩後退させる事に因り、大地を深々と抉らせる。
其処から、足を払うように薙ぎ払われた銀光も、非常にゆっくりとしたモーションから空中へと跳び上がる事に因り簡単に回避。
すべての攻撃を紙一重……と言えば、まるで両者の実力が伯仲して居るかのように聞こえるが、実際はかなり余裕のある体捌きで躱して行く俺。
そして確信する。アルマンは肉体強化系の魔法。吸血鬼の生来の能力として強化や加速は使用しているが、精霊の能力を借りて時間自体を操って居る訳ではない、と言う事を。
つまり、どんなに足掻こうとも、ヤツの攻撃では俺やタバサを完全に捉える事は出来ない。コイツは神の領域での戦いについて来られる程の能力は有していない、と言う事。
まして魔法に至っては発動しない可能性の方が高い。此処までの流れから、ヤツ自身が精霊を支配する能力を有してはいないと考える方が妥当。故に魔法を発動させるには、この世界独特
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