第一部
第一章
プロローグ
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度は逆に俺が、彼女の頭の上に手を乗せた。
「イブがやるよりも、俺がやる方がまだ自然だから。」
「……ボクが励まそうと思ったのに。」
イブの三角座りのまま、ぷくっと小さな頬を膨らませた姿を見て、俺は笑った。イブのそれを見ているだけで、俺の憂鬱な気分も軽くなっていく。これから待つ、現実世界での半日を乗り越えるだけの元気をくれる。
やがて徐々に視界が暗転していく。
「明日も、待ってるから。」
イブのつぶやき。俺の耳には届いた。
「俺も、またすぐに戻ってくるから……」
俺のつぶやき。イブには届いただろうか。ほとんど真っ暗で何も見えない視界の片隅に映る大平原と、イブの小さな微笑みも、意識の混濁とともに薄れ、やがてすべてが意識の外へと放り出されていった……。
………
……
…
「……」
大平原を眼前に、ボクはついさっきまで隣で腰を下ろしてぐだぐだしていた恭夜に思いを馳せる。すぐ隣の青々とした若草はぐったりと倒れ、さっきまでここに一人の人間が座っていたことを如実に物語っていた。ボクは再び視線を虚空に向ける。いつもと何変わらない空が広がり、何食わぬ顔をしたお天道様がボクをじりじりと照り付けていた。
「……あと、一年くらいかな。」
ぼそりと呟いたボクのつぶやきは誰の耳に届くこともないまま、この広大な緑と青と白の織り成す虚空へと吸い込まれて、やがて消えた。今、この世界には限られたモノしかいない。知らぬモノの耳に届くこともない。
「後一年で……頑張ってね、恭夜。」
その呟きは、この世界に吹き渡る涼風に流れ、廃ビルの方へと流れていった。
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