高校2年
第五十一話 巣立ち
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ルは抜けて、気持ちシュート回転がかかりながら手元で曲がり落ちていく。ブルペン捕手が、翼の腕の振りに騙されて前のめりになっていた。
率直に言って、かなり良い球に仕上がっていた。
(正月に帰省してから、何かこの球も変わったよなぁ。このボールなら、使えるわ。)
横目で隣のブルペンを見ながら宮園が内心つぶやく。中学の時野球部でもなかった翼が秋のベンチに入ったのも驚きだが、更に実力を伸ばしている姿には、実はこいつ、相当凄いんじゃないかという気もしてくるんだから癪である。
(……まぁ、ピッチャーは1人でも多い方が良い。こいつ、左だし)
マウンドの美濃部は、隣でチョロチョロするなとばかりに翼を睨んでいるが、宮園はむしろ喜んでいた。もちろん、そんな態度は表には絶対に出さないのだが。
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「失礼しまーす」
林が汗だくになりながら監督室のドアを開ける。監督室にある冷蔵庫に入れたドリンクを取りに来たらしい。この部屋に自由に出入りできるようになった辺り、OBになったんだなという実感が湧いてくるのだった。
「おー、林ー。指導お疲れやのー」
監督室に居たのは乙黒だった。浅海は、選手個別に守備の指導をしているのが監督室の窓から見える。そして乙黒は監督室から目をキョロキョロさせて、手元のノートに何やら書き込んでいた。
「乙黒先生、何しとーんです?」
「あぁ、浅海にな、毎日毎日誰か指定されてな、そいつの挙動ばしっかり記録せぇって言われとんのよ」
林が覗き込むと、同い年の浅海からの言いつけでも乙黒はしっかり守って、細かい所までメモをつけていた。
「岩谷……こらまた、微妙い奴ですね。ベンチにも一生入れんような」
「そういう、補欠にしかなれんような奴の事を気にかけて観察しとけって、そう言われたんよ。お前にはレギュラー9人以外の“野球部”を考える頭が欠けとるって。」
納得した顔をして話す乙黒に、林は思わず吹き出した。
「乙黒先生、もうすっかり浅海先生にひれ伏してますね!まるで先生と生徒の関係やないですか!」
「うるさいな!実際、あいつのが結果出したんやけ、文句も言えんだろーが!」
開き直って負けを認めてる風である乙黒に、林はまた笑った。確かに視野は狭いし、調子に乗りやすいけれども、乙黒はそう“悪い人”ではなかったよなぁ。宮園や枡田は乙黒の事をボロクソに言っているが、主将と監督の立場で共に過ごしてきた林自身は、今でも素直にそう思う。
「乙黒先生、またいつか、浅海先生以上になって、監督に戻って下さいよ」
「ん?」
「浅海先生にもお世話になりましたけど、俺らにとっちゃ、“監督”は乙黒先生ですけん。頑張って下さい。」
「……まぁ、見とけって。」
乙黒
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