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打球は快音響かせて
高校2年
第五十一話 巣立ち
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第五十一話


制服を着込んだ三年生が講堂から出てくる。
その手には、黒い筒。中には卒業証書が入っていた。

今日は三年生の卒業式。学校行事の中で、建前上は最も大事な行事であるが、一方で、生徒自身の気持ちからすると、下級生にとっては退屈だったりもする行事である。

「おい、A組出てきたばい」
「A組言うたら、横島さんや」
「よーし、じゃあ横島でいくで」

そんな中で、唯一下級生がせわしないのが野球部である。体育館の出口で先輩が出てくるのを待ち構え、そして1人1人に声援を送る。

「ゴーゴーレッツゴーー イケイケ横島!」
「「「ゴーゴーレッツゴーー イケイケ横島!」」」

わざわざメガホンまで持ち出して、全員で“応援”を始める後輩達に、髪の伸びた三年生が照れ臭そうな笑顔を見せる。
この光景は、三龍の卒業式の恒例となっていた。

「今年度も、ボチボチ終わりだなぁ……」

その光景を遠くから見ながら、浅海が呟く。
しみじみと、この学び舎を巣立っていく三年生に思いを馳せる。
長い冬が明けようとしていた。
春になろうとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



「……という事で、3月後半の春休みには、木凪ベースボールフェスタに招待される事になった!」

ミーティングで、浅海が興奮を隠し切れない様子で言った。それを聞いた部員達も、顔色が変わる。驚いた顔もあり、嬉しそうな笑顔も見える。
昨秋東豊緑州ベスト8の実績を評価され、三龍野球部は木凪諸島で行われる親善試合に招待される事となった。

温暖な木凪諸島では、まだ肌寒いはずの春先に思い切り野球ができる環境を求め、強豪校がキャンプを組んだりする。また、受け入れる木凪諸島の方も、気候を生かして強豪校のキャンプを誘致し、親善試合を積極的に組む事でレベルアップを図る動きを見せている。木凪ベースボールフェスタも、その一環。地元の高校と、他地区からやってくる学校とでリーグ戦を組むのである。

「ベースボールフェスタ自体は3日間で終了だが、せっかくの木凪だ、前後に練習日も挟んで、一週間ほどのキャンプを組みたい。野球漬けな日々を送ってもらうから、学業の課題はできるだけそれまでに終わらせておくように。無理なら宿舎に持ってこい。良いな?」
「「「ハイ!!」」」

ミーティングが解かれると、部員達は少し浮かれた様子だった。かなりの長期間に渡る合宿である。修学旅行とは違うが、しかしリゾート地でもある木凪に行くとなると、少しはテンションも上がる。高校生なら、そういう集団活動の予定があるというだけで盛り上がれるものなのだ。非日常が楽しみなものなのだ。

(やべぇだろ……)

しかし、ウキウキな部員の中でただ1人、冷や汗を垂らしている奴がいた。宮園
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