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乱世の確率事象改変
囚われの姫は何想う
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 何時かは来ると考えていた別離も、案外呆気ないモノだなと哀しみと落胆のため息を落とした。
 思い出に浸るには些か張りつめすぎている室内にて、楽しい平穏の時間を振り返りそうになるも、蒼い炎のように静かに燃える激情を心に燈し、冬川の冷や水のように冷たい冷静さを頭に広げた。

「甘寧……貴様らはクズだ」

 するりと零した投げやりな挑発は、思春を苛立たせるには十分。敬語が地である利九は相対した敵に対してだけ言葉を崩す癖があった。
 敵と相対したならば冷静さを最大限に掻き乱し、出来る限り長く縛り付け、殺せる隙か後々に響く波紋を作り出せ……との同志である張コウの言に倣って、利九は思考を回していく。
 目の前で殺気が膨れ上がる。されども思春は黙して語らず、じっと利九を見据えていた。

「後は『小蓮』に聞くがいい」

 瞬間、音も無く四本のクナイが利九に投げやられた。
 両腕の振り抜きは最速、狙った個所は全て急所、至近距離という最悪の状況……であるにも関わらず、利九は来ることが分かっていたというように、先に真横に飛んでいた。
 視界に捉えた思春は飛びかかり、逆手持ちで短剣を袈裟に薙ぐも……肉の裂ける音や感触では無く、金属特有の甲高い音と堅い質感が伝えるのは、攻撃が失敗したという結果。
 急ぎ、また距離を取った思春は殺気を溢れさせて忌々しげに顔を歪めた。

「紀霊……誰の許可を得て小蓮様の真名を呼んでいる」
「……交換した真名を呼んで何が悪い。やはり貴様らは自分達の事しか考えてないクズだ。真名関係で偽る事はご法度、我らへの憎しみでそれさえ忘れていたか」

 ギリと歯を噛みしめながら、思春は平坦にして敵意溢れる声に、挑発には乗らずとまた黙した。
 逃げ出すには十分な時間がある。最大人員を動員し、二部屋から二十丈分の人を全て黙らせていたが故に……利九に救援は無い。されども自分では敵わず、逃げるだけな事も理解している。
 その様子に、呆れたようにため息をついた利九は思春を静かに睨みつけた。

「孫呉の地を取り戻す。それは崇高な、本当に素晴らしい目的だろうな。反吐が出る」

 はっ……と吐き捨てるように目を横に切った。刃を向けて来いと作られた隙は、思春の心をさらに苛立たせる。それでも彼女は耳を傾けるだけであった。

「純粋でわがままな子供が太守で何が悪い。貴様らも……小蓮しか居なかったなら、そしてもし彼女がわがままで自分勝手だったとしても、そのまま御旗として掲げていただろうが」

 ゴミを見下ろすように、利九は思春に目を向けた。昏い感情が渦巻く瞳は真黒いタールのような憎しみしか映していない。
 
「言い返せないのか? 言い返せないだろうな。過去の栄光に縋るクズ共め。奪われたとしても負けを認めて今の主を助けようとすれ
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