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美酒(ビシュ)
ビシュ
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事。違うと言う人も、誰かと一緒だったら、すべての鍛え上げた記憶が、その人と共にある。独りよがりは楽しいから、そこにはナルシズムがある。みんなと一緒なら、それを笑い飛ばす心を自然に手にすることを捨てるだろう。だって、もともと、みんなに気を遣うから。一人の時、ナルに入るでしょ?

「一人のとき、この酒? それとも、人ごみの中で?」大事にしていると何だか、もう、期限切れみたい。一気に飲むと…馬鹿…馬鹿ですよね。以前、見たから。あれ、酒を飲むという行為が恥ずかしいんだって。分らないけど。タバコを吸い始めた中学生みたいな、目つきで周りを見て、「どんな、反応をするかしら?」と、笑っていた。「こいつ、気があるな」と、声が聴こえた。とても、気持ちが悪いから、「これはいかんね」と、あからさまに言った。人間って、複雑。言葉を先に言ってしまうアホ。一体、誰がそんなにこの人の心を削ったんだろ? 善人か悪人か、分らないじゃない。削った部分に、誰がいたかなんて、分らないし、正直言って、いつも自分でいたいじゃない。忘れた人に想い出は吸い付かないし、想い出の濃さなんて、自分で何とかなる。色もね。
 この部屋は、バールとか言ってるけど、かなり狭い通路。金色のビールが出る金色のサーバー。黒光りしているテーブルは、なでると、いやらしく感じるから、爪で「カツカツ」叩くくらい。この高い照明で、光っているのかしら? 私の髪。眼の奥が乾いている気がした。それとも生気がないだけかも。生気がなかったら、渇きなんて感じないか。目の前のバーテンがストライプのシャツを着ているだけの、細い男。何の決まりも無く、服装も自由。下は見えなかったが、ああ、細身の、柔らかい生地を使ったシャツなんだ。
 私の後ろで、一人客の中年男性が、米神に人差し指をあてて「ボォッ」と、店の中を眺めていた。「少しばかり、今日は楽しめるかな?」と思ったのに、かなり気持ちが入ったから、びっくりして緊張した。その中年男性と見合ったら、視線の強さを感じるかと思ったが、ほんのつかの間の後、自分の視線と混じりあった。「逃げるべきよね?」一瞬で思いついた言葉に、自分が無いことを悟って、手元の『ビシュ』を口に含んだ。「どういう具合に恋がはじまったか、分らないじゃない。この酒? この男? それとも、酒が私を、ここに呼んで、私が、この男をここに呼んで、さらに、外は……雨じゃないよね」
 一面のガラス張りの、細かく立てに仕切られた窓から、誰かがのぞいていた。そこにあるものを見ていたから、女もその視線を追った。ぼんやり何かが見えた気がした。恐らく寝そべる女であったから、「気がした」程度で済ました。たまにあるのだ。特別な人が見たものが、それほど特別ではない人間にも見えるという事。女は目を閉じて、硬くなった意識を、柔らかくして、やさしさみたいなものに変えた。ゆ
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