ビシュ
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って、その黒さに、「月日は過ぎ去りし」と言葉をかけ、壁の鉄赤に、火星の、燃え尽きた、生命への希求を見て涙を浮かべる。木製の椅子を眺めて、その紋様を捉えるとき、「生命の美しさは、コツコツやらなければ手に入れられない」という事を知り。「俺の若さが、なぜ美味さになる?」と疑問を呈し、さらには年老いた人間のすえた匂いに、鼻を曲げる酒飲みを思う。
「己が美味い?」喰われる事を前提にして言っているのなら、あえてここで、酒に加担する。
「己が美味いなどと思うなよ、アホンだら。そう思ったら、次の瞬間喰われるだけの人生だ。自分を守りたけりゃ、美味さを酒に閉じ込めろ。そしたら、悪いヤツ皆、酒を喰らって満足するだろ? 『お前の心は美味いのか?』そう訊かれることもあるだろう。そしたら、自分『もう引退しました』って言って逃げろ。うまい喰いもん作れる奴ら、愛がいっぱいって追いかけられる。うっとおしいから、うまい喰いもん作るんだ。それを餌にして全力で逃げろ。うまい人間の常等手段だ。分るか? アッホ」
「兄さんスゲェね。それも酒に入るの?」
「それって何だ? 俺の心か? 『念』か? 実はよ、それを聞いたお前。ビトの動揺が入るいのよ。動揺ってなんだ?」
ビトは考えながら、その精神を胸の中心に戻そうとした。そうしなければ自分の小さい器量が味に出てしまいそうだったから。
「アホ。動揺が味に出て不味けりゃ、失格だ。俺の読むところ、その酒を飲む人間に深い洞察を与えると思うぜ。違う? 『この女、行っていいのかな?』 ってさ」
ビトは意識的に心の深いところを眺めた。そこから目線を離さないように試みていた。これをあえて言うなら、若さから来る、大人への渇望なのだが、ビトの場合、それを極力排除した、純粋な潜水と言って欲しかった。ビトはそう言って欲しかったと共に、「俺はちゃんと、子供である事を自覚しているし、大人になる試みもしている。しかしながら、その手ごたえがないことにも気が付き、これは行き場のない若さというものを感じているのかもしれないとも思う」そう、空に言葉をうち付けた。
この味を知るものは少ない。少ないと言うのは見栄を張っているばかりの強がりで、「欲しいです」とさばけてしまえばカッコいいのに、何故かその行為は恥ずかしすぎるし、本当に若いから「知らなくていいよ」という気持ちが目力を強くする。想像ですが前頭葉があたたかい。
「選ぶ人で変わるものかな」一人で壁の前に描いたものは、確かな姿。頭蓋の中に染み込むようにして、身体ぜんたいを電気で泡立てる。
「それ、自然に出来るようになるのって、結構な才能だぜ?」
「街に出るよりきつくはないですよ」
「おお? それ、どういう意味?」
「目の前に迫った物事を想像するのは、恐怖だと知ってください」
「なるほど、チンコをしごいているのだね」
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