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Element Magic Trinity
涙の主と嘘つきな従者
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いたのかも覚えていない。

「次の日、だった。俺が起きて家のリビングに行った時、母さんが朝食を作っていた。俺が声を掛けると、母さんは・・・こう言ったんだ」

その時の辛さは、覚えている。
苦しくて言葉にならない。

「・・・っ」

言わなければならないのに、言えない。
言うのが辛い。
もう2度と聞きたくないのに、自分で言うのか――――――――。

「いいよ」
「!」

辛そうに俯くライアーに、ティアは呟いた。
反射的に顔を上げると、柔らかく微笑むティアの姿。
優しくて、柔らかくて、温かい微笑み。

「言いたくないなら無理には聞かない。でも、どんな辛い事だとしても」










―――――――私が全部、受け止めるから。










その言葉は、ティア本人としては無意識だったのかもしれない。
ただ思った事を言っただけ、なのだろう。
でも、ライアーにはそれが嬉しかった。

「母さんは・・・」

声が震えている。
言いようのない不安が襲い掛かってくるような感じがして、ぎゅっと己の身を抱く。
大丈夫、と言うように、ティアが小さく頷いた。





「おはよう、アニスト―――――――――って」





ライアーを見て、アニストと言った。
最初は自分の聞き間違い、もしくは言い間違いだろうと思った、とライアーは言う。
キラキラと輝く川が、目に映る。

「俺はライアーだって言った・・・そしたら母さんは微笑んで首を傾げて・・・『何を言っているの?ライアーはこの間死んだでしょ?』って。父さんも・・・『忘れたのか』・・・って」

怖くなった。
勝手に自分を死んだ事にした母親が。
残酷な事を微笑んで言い放つ母親が。
それに何の迷いもなしに頷く父親が。

「2人に必要なのはアニストで、俺は不必要だった。だから・・・2人は、俺をアニストとして育てようと考えたんだ」

身代わり。
死んだのはアニストじゃなく、ライアー。
生きているのはライアーじゃなく、アニスト。
ライアーは、妹アニストである事を、静かに強要されたのだ。

「・・・俺に反論の手はなかった。俺はその日からアニストとして生きるしかなかった・・・アニストのように髪を長く伸ばし、武器を握る事はやめ、アニストが得意だった舞踊を学んだ。勿論女になれる訳がないんだが、2人はそれで満足みたいで・・・」

ふわり、と黒髪が揺れる。
アニストを演じるべく長く伸ばした、黒髪が。
特に結わえる訳でもなく、ただ下ろしただけの髪。
結わえた方が邪魔にならないのだが、アニストはいつだって髪を下ろしていた。
だから、結わえる事はしない。

「・・・だから、いらない奴
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