涙の主と嘘つきな従者
[8/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
いたのかも覚えていない。
「次の日、だった。俺が起きて家のリビングに行った時、母さんが朝食を作っていた。俺が声を掛けると、母さんは・・・こう言ったんだ」
その時の辛さは、覚えている。
苦しくて言葉にならない。
「・・・っ」
言わなければならないのに、言えない。
言うのが辛い。
もう2度と聞きたくないのに、自分で言うのか――――――――。
「いいよ」
「!」
辛そうに俯くライアーに、ティアは呟いた。
反射的に顔を上げると、柔らかく微笑むティアの姿。
優しくて、柔らかくて、温かい微笑み。
「言いたくないなら無理には聞かない。でも、どんな辛い事だとしても」
―――――――私が全部、受け止めるから。
その言葉は、ティア本人としては無意識だったのかもしれない。
ただ思った事を言っただけ、なのだろう。
でも、ライアーにはそれが嬉しかった。
「母さんは・・・」
声が震えている。
言いようのない不安が襲い掛かってくるような感じがして、ぎゅっと己の身を抱く。
大丈夫、と言うように、ティアが小さく頷いた。
「おはよう、アニスト―――――――――って」
ライアーを見て、アニストと言った。
最初は自分の聞き間違い、もしくは言い間違いだろうと思った、とライアーは言う。
キラキラと輝く川が、目に映る。
「俺はライアーだって言った・・・そしたら母さんは微笑んで首を傾げて・・・『何を言っているの?ライアーはこの間死んだでしょ?』って。父さんも・・・『忘れたのか』・・・って」
怖くなった。
勝手に自分を死んだ事にした母親が。
残酷な事を微笑んで言い放つ母親が。
それに何の迷いもなしに頷く父親が。
「2人に必要なのはアニストで、俺は不必要だった。だから・・・2人は、俺をアニストとして育てようと考えたんだ」
身代わり。
死んだのはアニストじゃなく、ライアー。
生きているのはライアーじゃなく、アニスト。
ライアーは、妹アニストである事を、静かに強要されたのだ。
「・・・俺に反論の手はなかった。俺はその日からアニストとして生きるしかなかった・・・アニストのように髪を長く伸ばし、武器を握る事はやめ、アニストが得意だった舞踊を学んだ。勿論女になれる訳がないんだが、2人はそれで満足みたいで・・・」
ふわり、と黒髪が揺れる。
アニストを演じるべく長く伸ばした、黒髪が。
特に結わえる訳でもなく、ただ下ろしただけの髪。
結わえた方が邪魔にならないのだが、アニストはいつだって髪を下ろしていた。
だから、結わえる事はしない。
「・・・だから、いらない奴
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ