第百六十五話 両雄の会同その六
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「まさに形だけじゃ」
「それだけですな」
「もう滅んだも同じじゃ」
それが「今の幕府だというのだ。
「だから今仲裁をしても」
「渡りの舟であっても」
「無視することは出来る」
それが可能だったというのだ。
「幕府にも無視してもそれをどうこうすることは出来ぬ」
「それ故に」
「幕府には兵がない」
そこを指摘した顕如だった。
「最早な」
「僅かに。二条城を守る兵だけだとか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「それではどうにも出来ぬわ」
「幕府も落ちましたな」
「公方様は気付いておられぬが」
「幕府は何の力もなく」
「何時滅んでもおかしくはない」
それが今の室町幕府だというのだ。
「天下人なぞではない」
「名ばかりの武門の棟梁ですか」
「うむ」
顕如は確かな声で言い切った。
「それに過ぎぬ」
「では若し公方様の謀りが織田信長に知られれば」
「危ういのう」
「兵を挙げれば」
「誰も従わぬわ」
最早何の力もない幕府にはというのだ。
「しかも今の公方様はな」
「義昭様は」
「人に好かれる方ではない」
顕如の言葉が鋭くなった、まるで馬を打つ鞭の様に。
「到底な」
「だからですな」
「兵を挙げられ様とも誰も従わぬわ」
「瞬く間に敗れますか」
「必ずな。やはりご自身はわかっておられぬであろうが」
「武門の棟梁が言うことは誰も従うと」
「そう思っておられる」
義昭だけが思っていることだというのだ。
「実際は最早幕臣も殆どが織田家の禄を貰い青い服と冠を身に着けておる」
「織田家の色ですな」
「うむ」
最早幕府に何の力もない証に他ならない、幕臣達ですら織田家の服を着ている様な有様ではというのだ。
「幕臣で青い服でないといえば」
「あのお二人だけですか」
「天海殿と崇伝殿だけじゃ」
まさにその二人だけだというのだ。
「闇の服のな」
「まさに幕府に人はなしですか」
「何もないわ」
誰もおらず、というのだ。
「まさにな」
「大海原の木の葉の様なものですか」
「うむ、そうじゃ」
言葉として表せばそうなるというのだ。
「最早織田信長の胸先三寸よ」
「その存亡は」
「織田信長が一の人じゃ」
それが今の天下だというのだ。
「それに他ならぬわ」
「ではその一の人と」
「会う」
義昭とではなく、だ。彼とだというのだ。
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