第百六十五話 両雄の会同その五
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「摂津も山城もな」
「そういえば織田家との戦までも」
「織田信長は民には一切手出しをしませんでしたな」
「それどころか民を常に守ってきました」
「そうしてきました」
「しかしです」
ここで言って来たのは雑賀だった、彼と彼が率いる雑賀衆が顕如の身辺を影から固め護っているのである。
「仕掛けて来たのは織田家の方です」
「長島においてじゃな」
「はい、民達を急に襲い」
雑賀は本願寺と織田家の戦のはじまりのことから話した。
「殺めんとしてきました」
「それを見ればな」
「やはり織田信長は仏敵です」
こう顕如に言うのだった。
「あの者は」
「拙僧もそう思う。しかし織田信長は我等との戦の間も民を手にかけはしなかった」
「それも一切」
「そうじゃ、全くな」
一向宗と戦いはした、しかし降るならば何もしなかった。顕如は伝え聞いているこのことからも雑賀に話すのだった。
「仏敵にしては面妖じゃ」
「そうなりますか」
「実にな。まことに何者じゃ」
それがわからないというのだ。
「あの者は」
「わからなくなってきましたか」
「領内を見る限り悪いものは感じぬ」
それも全くだ。
「むしろいいものをな」
「感じられますか」
「そうじゃ、そちらをな」
「では長島のことは」
「何であろうな」
顕如は眉を曇らせて雑賀に応えた。
「一体」
「わからなくなってきたと」
「まずは織田信長に会ってからじゃ」
それからだというのだ。
「あの者がどういう者か見ることもじゃ」
「してみるのですな」
「そのつもりじゃ。ではな」
「このままですな」
「都に向かうとしよう」
その信長に会う為にだ。
「ではな」
「そうですな。あと公方様ですが」
雑賀は彼のことにも言及した、彼はというと。
「幕府の命運も」
「幕府か」
「尽きておる様に思いますが」
「うむ、幕府はな」
実際にだとだ、顕如も否定せずに言う。
「最早形だけじゃ」
「名前はありますが」
「ないのと同じじゃ」
そうした存在になっているというのだ。
「応仁の乱で山城一国しか治められなくなっておった」
「既にですな」
そうした意味でだ、室町幕府は戦国大名達と変わらなくなってしまっていたというのだ。山城一国しか治めることの出来ない。
「しかもそれに加えて」
「義輝様が弑逆された」
他ならぬ松永久秀と三好三人衆によってだ。
「それによって余計にな」
「幕府は衰え」
「今では山城一国どころかな」
「都さえもですな」
「治められなくなったわ」
「まさに都におるだけじゃ」
都も信長が治めている、それでなのだ。
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