トワノクウ
第六夜 ふしぎの国の彼女(二)
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これですか。今回のは特に切り傷が酷くなる、嫁入り前の娘が顔に傷をつけるな、と佐々木様の奥方様が」
――この、声。
知っている気がする。女の子にしては低く、その音質だけで本人に「生意気」のレッテルを貼る、声。
「朽葉さん、今日はうちの仕事ですからご遠慮願えますか? あたしにも貴重な練習の場なんで」
練習って、といきり立ったくうを、少女は意に介さず動いた。
少女は音叉を出すとそれの柄に軽い音を立てて口付け、腰に下げた匕首に打ちつけた。場に見えない波を広げる純音に、呼吸が掻き乱された。
振られた音叉から出てきたのは、よもぎ色の体毛と赤い瞳の対比が映える三つ目に六本足のウサギだった。ウサギはその矮躯に似合わぬ推進力でカマイタチに体当たりを食らわせた。
カマイタチが地面に落ちると、小イタチが駆けつけてくる。兄イタチたちを案じて懸命に走る。
その小イタチにすら少女が狙いを定めた時、くうはほぼ脊髄反射でとび出した。
「だめだ、くう!! 戻れ!!」
聞けない。大丈夫だ。この程度のピンチならシミュレーションノベル系で何度も潜り抜けた。成功率2,7のミッションを最短でクリアしたこともある。
くうは野球の滑り込みの要領で、転びながらイタチを腕の中に収めることに成功した。
(ほら、やっぱりできた。お父さんの会社の仮想現実は最高なんだから。現実だって、ほら、こんなに上手く応用できた)
だが、ウサギを避けるのは間に合わなかった。ウサギはイタチではなく、くうにその威力で体当たりを食らわそうと突撃してくる。
くうはイタチを抱えて背中を丸めた。
ウサギの直撃を受ける前――横ざまに別のものが出てきて、ウサギはそれにぶつかって転がった。
巻き上がった砂埃に遮られた視界が晴れると、くうの目の前に象ほどもあるネズミが立ち塞がっていた。
『怪我はないかえ?』
「は、はひっ」
慌てて答えたくうの向こう側、わずかに見えた朽葉は忌々しげに唇を噛んだ。
「こら藤さん。その程度の小物、一度に片付けなさいって前にも言ったでしょうが」
どこからか聞こえた声は壮年の男のものだ。
「黒鳶……」
朽葉が頭を巡らせた方向をくうも見やると、塀の上に白い忍装束の男がいた。背や肩幅が江戸時代の男性にしてはしっかりしている。
「朽葉さんじゃないですか。どうもお久しゅう」
男は至って適当に朽葉に手を振った。逆に朽葉の表情は険しさを増した。
巨大なネズミが少女の横を通り過ぎ、無残に地面に落ちたままのカマイタチ二匹を少女の前に放ったところで、黒鳶は少女のほうに向き直った。
「藤さん。仕損じるとさっきみ
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