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トワノクウ
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第六夜 ふしぎの国の彼女(一)
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、とかですよね)

 人の切実な様子さえそう解釈してしまうゲーム脳が憎い。

「今の妖って、そんなにたくさん人を襲うんですか?」
「本来ならこういう事態にはならないはずなんだ。妖は血の穢れに弱いから、そそのかすことはあっても実は人を食べることはしないと――知り合い、も言っていた。食らうとしたらそれはすでに何かの弾みで人を殺めて止まれなくなったか、夜行に穢れを植えつけられたかだ」
「夜行ってそんなこともできるんですか」
「奴は狂わせる≠ニいう形で干渉するからな」
「そんな夜行におかしくされた妖達が表に活発に出てきて」
「人間を食らう数が増えた――奴らも天座のおかげで近年は人の血肉が毒になると分かってきているはずだから、状況と矛盾するんだが……」

 本当に朽葉は妖事情に通じている。話すだけで百科事典(データベース)を閲覧しているようだ。

「そもそも奴らが人と争うのは縄張りを侵された時だけだ、基本は」
「基本以外には?」
「まあ、仇討ちや恩返しとか」

 妖は他者のためにこそ力を揮うのであって己のための人喰いはしないはずだが、妖の生態に背いてまで人喰いをしている。
 人喰い妖は血の穢れに酔ったか、夜行に狂わされたか。現時点では犯人は不明。
 ――それがある限りの情報から導かれる現状。

 くうは両手でこめかみを揉んだ。

「……むつかしいです」
「私もだ」

 朽葉は困ったように苦笑した。どんな笑顔もさまになる人だ。

「時間を食った。急ごう」
「すみませんっ」
「いいから」

 先に行く朽葉にくうも続く。揺れたくうの肩にイタチがしがみついた。

(優しすぎる人。くうなんかにこんなに気を遣ってくれて)

 人が人に注げる優しさなど極小だ。そもそも赤の他人同士がプラス感情でつながる自体に、くうは懐疑的である。迷子の子ども、ふらふらの老人、白い杖の人、家のないおじさん――誰にも助けはないのがデフォルト。

 では、まったくこれらの例外である朽葉は?

(私もこんな人になれる――わけない、よね)

 くうは、空洞(くう)。カラッポのスカスカ。中には何も持ちえない。
 満たされないし、満たしもしない。



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