トワノクウ
第五夜 明けまく惜しみ(二)
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が今回の仕事――、くう?」
「ひゃい!?」
また噛んだ。もう帰っていいデスカ?
「………………………ぷっ」
朽葉が噴き出すに至って、くうは本気で腕の中のイタチと共に旅に出ようかとの決意を固めかけた。
「い、いや、すまん……っくく、はは、あはははっ」
「ふぅ〜〜〜〜っっ」
好きで失敗したのではないのに笑うなんてひどい。そう訴えたいが羞恥心が暴れて収まらないので言葉が出ない。
涙目のくうは、しかし、目の前の朽葉の笑顔に心奪われてしまった。笑われているのに、朽葉はきれい。とてもきれいに笑う。ああ、悔しい。
「盛り上がってるとこ悪いんですが」
佐々木に水を差されて、ぴたりと朽葉は笑いやんだ。もったいない。
「三匹を総じて一体となすカマイタチの、よりによって薬師が抜けたせいで巷がどれだけ騒がしいかはご存知ですよね?」
「……、瞬時に傷を治すこの三匹目がいないせいで、ひどい裂傷を負う者が増えている、ということなら存じ上げています」
くうは先ほどとは一八〇度異なる目で腕の中のイタチを見下ろした。この子の兄である二匹の獣がそんな酷いことを――
何のために?
(前にやったシミュレーションでも理由は設定されてないパターンがけっこう多かった)
物語の展開上必要な悪役には総じて悪行の動機が綴られない。それと同じようにここでも理由はなく、ただの生態なのかもしれない。
「ですが佐々木殿、これさえいればカマイタチはさほど危険では」
「いや、それは分かりますがね」
佐々木のわざとらしい落胆にくうは嫌な予感がして、まさか、と肩から背中が強張った。
「ウチの祓い人が出かけちゃったんですよ、そのカマイタチ退治」
「なっ……!」
朽葉がわずかに腰を浮かした。佐々木に詰め寄ろうとしたのだろうが、その先の動きが続かなかったのは動揺からか。
「今まで市民が襲われた場所から割り出すに、今日あたり日比谷の大名屋敷一帯に出没するだろうということらしくて」
日比谷というと江戸城の近くだ。大名屋敷とは、江戸城近郊や郊外に建てられた、参勤交代で上京する大名たちが住む邸宅である。屋敷町は公的な用途で大名に使われた邸宅とされている。
「場所が分かってんなら退治に出てきてくださいと部下に言っちゃったんですよ」
くうも身を乗り出した。その勢いにびっくりしたイタチが慌ただしく、くうの首に巻きつき、生きた襟巻きになる。
「そ、それってこの子のお兄さん達を、あの、駆除、しちゃうってこと……」
「そうなりますねえ」
「! 朽葉さん!」
くうは倒れかかるも同然に朽葉の着物を掴んだ。助けてくれ、か一緒に来てくれ、か。どちらを訴えたかったのかはくうにも判然としない。
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