トワノクウ
第五夜 明けまく惜しみ(一)
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人に間違えられただけか? 他には何か聞かれんかったか? その、目とか」
「はい。あの、それって変ですか?」
オッドアイを追及されることはなかった。佐々木の気遣いだろうと深く考えなかったが、沙門の歯切れの悪さを見るに別の理由があるらしい。
「いや、何もなかったんならいいんだ」
客間の前に着いて、沙門はあいまいに笑って障子を開けたので、くうはそれ以上の質問を重ねられなかった。
「よう、只二郎。久しいな」
沙門は気さくに手を挙げて部屋に入ると、佐々木の正面にあぐらを掻いて腕組みした。くうはしかたなく、続いて入ってそっと障子を閉めて、隅に控える。
中で待っていた佐々木は呆れたように溜息をつく。そのしぐさが親しい間柄特有のものだったので、佐々木の言った「腐れ縁」には友情の成分が多いのだろうと思われた。
「まだ前に来てから六日ですよ。――出家人のくせにこんな愛らしい女中さん雇ったんですか、このくそ坊主」
佐々木はくうにも言ったことをそっくりそのまま復唱した。
「掃除洗濯するヒマもないんだからしゃーないだろうが。くう、俺にも茶ぁくれ」
「はーい」
くうはすぐに部屋を出て、一度廊下に置いた道着袋と竹刀を沙門の部屋へ持っていく。そして台所に向かい、置いてあった冷茶を二つ目の切子に注いだ。
(剣道の後って、潤君、すごい水分補給してたし、お茶ごと全部持ってったほうがいいですね)
なみなみと満たされた切子は陽の光を受けて手元に透ける模様を作る。
くうはくすりと笑み、切子と茶瓶を盆に載せて客間に戻った。
中ではすでに沙門と佐々木が向かい合って話をしていた。
「――お待たせしました。どうぞ」
「ん、すまんな」
くうが置いた切子の中身を、沙門は一気に飲み干し、たんっと音を立ててそれを卓に置いた。
「で、また陰陽寮の勧誘か、只二郎。お前も懲りんな」
「こっちも切実に人手不足なんですよ。最近の減り方はすごいですよお。欠員報告を聞くだけで日が暮れるくらい」
ずずいと沙門に詰め寄る佐々木の目は、白い面積が大きい。まるで瞳孔や虹彩をどこかへ失せたようだ。
「昔の誼で誘ってんじゃないんですよ。猫の手も借りたいってのがまさにウチののっぴきならない現状なんです。六年前の事変での人々の消失≠竍変質=Aあれで陰陽寮の人数もずいぶん減りました。同じ妖祓いならウチでもそう大差ないでしょう」
――あやかし、ばらい。
やはり佐々木は妖関係者だったか。
「確かに俺にゃあそっちのが向いとるだろうし、俸禄も出るなら持って来いだろう。だが俺がそっちにいると、なし崩しに朽葉もそっちにおらにゃならんだろう」
「相変わらず親馬鹿ですねえ」
「何とでも言え。お前も
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