五話〜始動〜
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の九月。比較的薄めのコートを装備している俺でさえ、随分前からうちわと冷たい麦茶が所望なのだから、全身を覆う厚いコートと深いフードという格好はいくらなんでも暑いはずだ。にもかかわらずそれを除装しないのはよっぽどお気に入りなのか、やはり重度の寒がりなのか、はたまた全く別の理由なのか。
「あの方……じゃないでしょうか?」
突然、何か思案するようなティーナの声と羽織の裾が、実に無駄な考察にふける俺の視界の端ではねた。
そういえばティーナも結構厚着だよなと、思考の余韻を残しながらも一足遅れて彼女の言うところを理解した俺は、こげ茶フードの件で中腰になっていた腰を伸ばしつつ、声を押し出した。
「あの方って、あのこげ茶フードのことか?……ああ、もしかしてあいつが――」
「………!」
俺が比較的大きい声を出したからだろうか。いきなりこげ茶フードの頭が持ち上がり、中の眼がこちらを見据えた。
「……!!!」
その眼は見る見るうちに見開かれ、狂気もかくやといったところでようやく静止、硬直し、わずかに開いていた口元が引き締められていくと――それを合図にしたように、降りてきたフードの端によって隠れた。
――ボスモンスターとの対峙――
そんな単語がぴったり当てはまるような、殺気にも似た感覚。
一気に体がこわばった。
目はあの眼光に当てられて動こうとしなかったが、かろうじて動いた唇と喉で、アスナとティーナに合図を送ろうと試みた。
「……アスナ、ティーナ、念のために――」
「キリトさんはアスナさんの前に。走る準備もしておいてください」
後ろで構えておいてくれ。という合図の続きを、有無を言わさぬティーナの一声が押しのけた。やはり血盟騎士団の参謀ということなのか、その声は妙に説得力がある。
――と、俺がアスナの前に一歩踏み出した時、不意にこげ茶フードが首を垂れた。いや、影に紛れてわかりにくいが前傾姿勢を取ったのだ。
――くるか――
無意識のうちに背中に手が伸びそうになる俺と同じくそう考えているのか、ティーナの手もカタナの柄に触れていた。圏内であるし危惧すべき事態にはならないだろうが、この状況だ。慎重すぎるくらいがちょうどいい。
途端、こげ茶フードのフードがめくれあがり、こちらも同じくこげ茶色のくせ毛が飛び出した。と同時に滑るように突進してくるこげ茶フードにさらに緊張が走る。
コンマ数秒の内にすさまじい俊足で間を詰めてきたこげ茶フードは、数メートル手間でいきなり急ブレーキをかけ、靴底から火花を吹き出しながら再び止まった。ゆっくりと顔を上げ、そして――
「アスナさんじゃないですかあ!」
やたらとでかい男の声があたりに響いた。
「………」
一瞬にして空気が凍り
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