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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第59話 「第三七代銀河帝国皇帝ルードヴィヒ一世」
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「……なんだと?」

 くそっ、仮にも自治領主になるはずだった男だ。いまだ我々が把握できていない仕掛けを組むぐらいできるだろう。まったく腹立たしい。
 これだから自意識過剰で、自分が一番頭が良いとうぬぼれている奴は度し難いんだ。

 ■宰相府 リヒテンラーデ候クラウス■

 フェザーンでオーベルシュタインがあらゆる手段を用いて、地球教徒のテロを防ごうとしているさなか、リッテンハイム侯爵が宰相府に姿を見せた。
 力強い足取りじゃ。優雅さを己に課していた男とも思えぬ。まるで軍人じゃのう。

「――皇太子殿下」
「リッテンハイムか」

 皇太子殿下の前に立ったリッテンハイム侯爵は、神妙な面持ちで一つ頷くと口を開いた。

「自由惑星同盟との協議はまだ終わってはいないでしょうな」

 皇太子殿下の目が見開かれた。
 わしも背筋に鳥肌が立ったわ。まさか、否。こやつは行く気だ。

「本気か?」
「当然」

 そろりと皇太子殿下が口にされる。
 リッテンハイム侯爵は何の気負いもないかのような態度を見せた。
 テロでブラウンシュヴァイク公爵を失ったばかりじゃというのに、再び敵中というべき、自由惑星同盟首都に赴こうとする。帝国は本気で和平を考えている。リッテンハイム公爵の行動はなによりの表明となろう。
 軟弱な腰の引けた男ではできぬ行動よ。本来門閥貴族とはこのような存在なのだ。

「よかろう。卿をハイネセンに派遣する。自由惑星同盟との協議は任せたぞ」
「御意」

 自由惑星同盟からは協議についてなんら打診がない。
 いっそ向うからこちらに来ると言い出せば、主導権を握れたものを……。
 帝国の方から再び向かえば、協議も和平も帝国から与えられたものでしかない。与えられなければ何もできないような者が帝国と対等とはなりえぬ。

 ■フェザーン自治領主室 ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ■

 アドリアナ・ルビンスカヤの進言によりルビンスキーの動向を探らせた。
 オーベルシュタインがフェザーン全土に張り巡らせた網は実に優秀だ。あっさり見つけた。そして本気になった兵士たちは危険を顧みず、地球教徒のアジトに突入し、ルビンスキーを捕えた。
 この間わずか一日。

「早いな。行動が速いからといって本気をいうわけにはいかないが」

 思わず苦笑が漏れた。
 オーベルシュタインの奴が、そんな俺に呆れたような視線を送ってきやがる。
 捕えられたルビンスキーは落ち着いた態度を崩さないらしいが、モニター越しに見る奴は、宰相閣下やブラウンシュヴァイク公爵などと比べると見劣りした。

「この銀河を舞台とすれば、宰相閣下は主演男優だな」
「ルビンスキーは脇役にすらなれなかった」

 端役か……。思えば名だた
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