大徳の答えは白に導かれ
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白蓮や星、鈴々が桃香達と話さなくなってから五日。劉備軍に与えられた被害は甚大であった。被害と言っても戦による物理的な損害という訳では無く、攻撃を受けずに兵の数が大きく減ったのだ。
行軍中に娯楽と呼べるモノは喋る事くらいである為に、兵同士で噂や情報が回るのは普段よりも早い。黒麒麟が居ない、徐晃隊が居ないと伝われば、何故かと考えるのは必然であり、彼の元よりの噂から脚色されて広まっていくのは当然であった。
離脱した兵曰く、我らが兵士となったのは家たる徐州を守る為。黒麒麟が残るというのに、どうして自身で守るべき徐州の民が離れられようか。
一万という膨大な数ではあったが、それでも離反する兵がその程度に留まったのは奇跡的と言えた。以前からの行い、加えて徐州での桃香達三人による尽力あってこそ、残りのモノは着いて行くと決めてくれた。しかし士気がどん底まで下がってしまうのは詮無きこと。
士気が格段に落ちている状況の中、朱里は一人、残存兵数と分け与えて残った兵糧の計算の途中で、彼の影響力と先読みに心が疼いていた。
秋斗が行ったモノは、劉備軍が離れる事を前提として、徐州の自衛力や生産力低下を危惧しての思考誘導。それに気付いた為に。
――やっぱり……あの人は益州入りを狙ってたんだ。徐州に私達の影響を残して、曹操さんが掌握しきる為の時間を稼いで、しっかりと相対出来るように。
彼が何を目的に動いていたかが見えて、心が落ち込んで行くのと反して、ゾクゾクと背筋に快感が昇る。
――きっと洛陽の時点で既にこの状況を読んでいた。そうでなければ戦が終わってから直ぐ、白蓮さんに同盟を薦めるわけが無い。白蓮さんが勝とうと負けようと、彼はずっと……曹操さんを打倒する為に思考を積んでいたんだ。
彼を思い出すだけで締め付けられる胸の痛みから、朱里の淡い桜色の唇から熱い吐息が漏れた。
狂う寸前の他が為を想う滅私の在り方、狡猾にして冷徹ながらも卑賤ならず温情な心、どちらもが……彼女の仕える主とは似て非なるモノ。
心臓はうるさい程に喚き散らし、脳髄に居座る黒い獣はその存在を求めていた。
全てを見て欲しい。全てを理解して欲しい。全てを扱って欲しい……従えて欲しい、と。
被支配欲と言えるその感情は異質なモノだと朱里も理解している。
桃香に向ける欲求とは似ているが全く違うモノであり、皆を同列に扱う事を良しとする桃香に仕えるならば持っていてはいけないモノ。
今、秋斗に向けているのは、心優しい朱里が持つはずの無かった感情。秋斗の異常な先読みと効率思考は、それだけ朱里の内部に居る化け物にとって魅力的だった。
冷徹な軍師としての彼女は未だ冷めやらぬ微睡の中であったが、居なくなった彼の影を見る度、聞く度に目覚ようと意思を露わにしていた。
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