48:リング・オブ・ハート
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わないでおこう。
「ああ、本当にな。……けれど」
「けれど?」
アスナは首を傾げる。
……そして俺は、この部屋に入る際、わざと開けっ放しにしたドアに向けて少しだけ声を張った。
「――けれど、こんな良い空気なってもまだ入ってこないなんて、あなたも悪い人ですね。――――マーブルさん?」
「えっ?」
アスナ共々、ユミルまで俺の言葉に驚き、開きっぱなしのドアに目が集まる。
すると。
「…………ごめんなさい」
その言葉と共に、この宿の店主……マーブルが廊下から姿を現した。
降ろした手をエプロンの前に合わせたその顔も俯き気味で……申し訳なさそうにしている。……いや、ユミルに目を合わせないようにしていた。
「マーブルさん、あなたにはユミルに言うことが……言いたいことがあったんでしょう?」
「……………」
けれどマーブルは重ねて申し訳なさそうに唇をきゅっと引き結んで、ユミルへの言葉はおろか、俺への返事すら言えないでいた。
……あれから目を覚ました彼女はずっと、ユミルに謝られるのを……そして責められるのを恐れていたのだ。それは、今も全く変わっていなかった。
「……マーブルさ――」
「――マーブル」
すると、俺の催促をさえぎって、ユミルが彼女を呼んだ。
「……待ってくれユミル、彼女は、まずお前に言いたいことが――」
「いいの」
重ねて強い言葉で遮られる。
「……ボクから言わせて」
ぐい、と涙を袖で拭われたその目には……今まで見たことのない、ユミルの強い意志が宿っていた。
「……わかった」
それを見た俺は、椅子の背もたれに体を預けながら言った。すると「ありがと、キリト」と小声でユミルが言ってくれた。
「マーブル」
「っ……」
再び発せられたユミルの呼び声に、どちらが年下か分からなくなる程に、マーブルの肩が怯える風に小さく震えた。
それを見たユミルはくすり、と小さく笑うが……次の瞬間には、とても真剣な目で顔を引き締めた。
「……マーブル。……ボクは、『ごめんね』なんて言わないよ。マーブルには……謝らない」
「っ……!?」
芯とした声が静寂の部屋に響く。
恐れていた返事を耳にしたマーブルは今度こそ、ビクッと肩を上げて伏せた顔の下唇を噛んだ。その美貌には、今にも張り裂けそうな心情が読み取れる表情が浮かぶ。
「そ、そんなっ、ちょっとユミルく――」
「待て、アスナ」
詰め寄ろうとしたアスナの肩を掴んで首を横に振った。
俺はあのユミルの目を見て「もう大丈夫だ」と確信して、彼に任せた。
そう、おれは信じているのだ。彼を。
「ボクが今、マーブルに言える言葉
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