第三部龍州戦役
第四十七話 <皇国>軍の再動
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定時報告が届いた時、司令部の緊張が多少なりとも緩んだ事は確かだった。
「予備隊の三分の一、それも我が軍の保有する剣虎兵科を丸ごと無為に使い潰さずに済みましたな」
軍参謀長の豊浦少将が汗を拭きながら言った。一見貧相な中年男にしか見えないが、軍官僚としてそれなりに良い評判を得ている。作戦業務に関しては、壊滅に近い状況にある砲兵隊の再建と補給計画の構築に関する業務を主導しており、どうにか明日の攻勢に向けて準備を整えている。
「護州の横槍の所為で余計な面倒を抱える羽目になった。ここは第三軍司令部であって護州軍の参謀部ではないのだぞ」
司令長官である西津中将が不機嫌そうな顔のまま云った。彼自身は西原に利害が絡まない限りは深入りを避け、調停役として立ち位置を維持する現当主である西原信英公の従来のやり方を望んでいたが、護州――守原英康大将は旗幟を鮮明にする様に欲求したのである。
「此処で護州に敵対するのは望ましいものではありません。御本家の事を慮るのならばこれが落としどころかと」
情報主任参謀である長隈中佐が司令官を窘め、そして話題を変えようと彼の部下に視線を送る。
「それにしても<帝国>軍は流石に補充が早いですね。予備部隊の上陸もほぼ完了しつつあるようです、我らも計画を前倒しした方が宜しいかと」
地図に報告の入った情報を書き込んでいた情報次席参謀の土屋大尉が報告した。衆民出身であるが故に先程までのような事には半ば憎しみを抱きながら無関係を貫いている。
将家出身の司令官・参謀達は導術の積極利用に否定的であったが、<帝国>龍兵による大規模爆撃まで戦局を優勢に維持し続けでいた事にこの衆民大尉が構築した第三軍の導術運用が大きな役割を果たしている事を認めざるを得ない事も理解していた。
そして奇妙な話ではあるが、彼ら高級将校達は導術を利用せずにもっぱら次席参謀如きが導術による司令部からの発令を代行する羽目になっていたのである。傍目からすれば馬鹿げた姿であるが、これは、太平の世に見つけられた落としどころをそのまま受け継いだ光景であった。
「予備が出てきたとなると、第二軍だけではなく火力を削がれた我々か、近衛総軍に対し反攻をしかけられる可能性もあります。自分は龍州軍の支援を受け、可能ならば攻撃開始時刻を一刻程前倒しにして払暁直前に奇襲を仕掛ける事で機先を制する必要があると具申します」
「――可能か?」
視察から戻った兵站参謀達と話し込んでいた豊浦参謀長が慌てた様子で可能だと応えると歴戦の将軍は直ちに実行を命じた。
「どのみちとるべき行動は何も変わらん――向こうが動き出す前に機先を制し、一挙に本営まで打通するしかあるまい。先遣支隊がどの程度まで動くのか分からんが、今はこの戦の主導権を握らせるしかなかろう
……荻名、方策をまとめた
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