第一章 暖かい朝
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因子は駆除するほど強大なものになる。そしてそれはやがて手に負えず、逆に蝕まれてしまう。それを免れる唯一の方法はその因子と共存することである。
医学者 レドリア・K・マーカー
乱世で生き残るためには理論を唱えるな。乱世を変えたければ非常識であることだ。
資産家 鈴木 孝宏
人間はその理性を失えば第一欲求を満たすためだけに生体活動を行う機械に過ぎない。生物性、つまり本能を追求する程、生物性を失う二律背反が生じる。だが、僅かに残った壊れた理性を持てば、人は狂人と化す。
なによりいちばん怖いのは、我々が持つ『想定する』思考にある。
哲学者 李 詠史
死ぬこと、生きること、病にかかること、歳をとること、それらは確かに苦しいことだが、それらを経験することで初めて幸福を知ることができる。また、それら自体にも幸せがある。我々生き物は苦しみを越え、幸せを掴める能力を持っているが、同時に幸せを求め、苦しみを作り上げてしまう能力も持っている。
小説化 アドリエラ・J・ケイト
不可解である程恐ろしいものは無い。故に人はそれを神と名付けた。神は言語であり、言語は世界そのものである。原理がなければ人は前に進まない。人の存在が太古ある自由な世界を『枠組み』である額縁の中に描いてしまったのだ。
思想家 スピル・T・オートリオン
「……」
まだ明けていない夜、薄暗い一室でベッドに寝転びながら数冊の本を読んでいた。傍に置いてあるスタンドが文字を仄かに照らしてくれる。
「……『神は世界そのもの』、か……」
馬鹿馬鹿しい。
私はそう呟き、本を閉じた。
傍に置いてあったアラーム時計に目を向ける。モーニングコールが鳴っていない辺り、まだ6時を迎えていないのだろう。
「……まだ5時前なのか」
はぁ、と私はため息をつき古臭い天井を見つめる。見飽きた天井を見てもしょうがないのでゆっくりと目を瞑った。
「……」
結局、一睡もできなかった。今から寝ようかと考えたが、万が一寝坊して仕事に遅れたら話にならない。このまま寝着いたら起きれなくなりそうなので、私はベッドから体を起こし、窓を開ける。
(……珍しいな。夜明け前なのにやけに暖かい)
窓から吹きぬけてくる風が何だか気持ちよかった。だが、変わったのはそれぐらいで、ここから見える辛気臭い街並みは相変わらずだった。藍色の空と黒に近い灰色の雲が天を覆う。外はいつも通り、信じられない程静かだった
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