第五章
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そう応えて出してきたのは。見れば。
「これでござる」
「むっ!?」
慶次が出してきたのは一枚の紙であった。そこに書かれていたのは。
黒い大きな文字であった。その豪快な筆から慶次の字であることがわかる。そこに書かれている文字とは。
『よくわかりました』
その一文だけであった。利家は最初その文字を見て思わず目が点になった。
「何じゃ、これは」
「その証拠でござる」
慶次は平然としたまま答えてみせる。文字を見せながら。
「拙者があの寺に行き何もわかった証拠でござる」
「これがか」
「左様」
不敵な笑みはここでも変わりはしない。
「叔父御、これで宜しいでござるな」
「うむ」
利家はその言葉を受けてまずは目を閉じた。それからまた言う。
「しかと見た」
「左様でござるか」
「慶次、貴様の言いたいこともな」
「ではこれで宜しいでござるな」
「目を閉じよ」
利家はまた言う。
「よいな。今から」
「目をですか」
「何ならそのままでもよい」
利家の言葉はまだ続く。
「何故ならのう」
「何故なら。褒美を与えて下さるのですな」
「ふざけるでないわ!」
ここで遂に怒りを爆発させた。他ならぬその文字を見てのことである。
「本当に見て来たのか!何じゃその一文は!」
「だから。よくわかり申したと」
「そう見えると思うか!詳細を述べてみよ詳細を!」
「詳細は拙者の頭の中、いえ」
「いえ!?」
「心の中にちゃんとあり申す」
悪びれずに出した言葉であった。
「しかと。この胸に」
「その胸にか」
「その通りでござる」
己の左の親指で誇らしげに胸を指差す。それが何よりの証拠と言わんばかりである。
「ですから。御心配なくでござる」
「そうはいくか!やはりそこになおれ!」
「なおればどうされるのでござるか?」
「一発殴らせるがいい!許せぬ!」
「あいや叔父御、それはまた」
慶次も慶次で悪びれるところは全くない。
「それはまた穏やかではありませんな」
「穏やかでなくともよいわ!覚悟するがいい!」
二人はそこからまた喧嘩になるのであった。その間にまつや慶次の女房が間に入って大騒ぎになる。前田家は今日も大騒ぎであった。
「全く旦那も」
それを遠くの自分の粗末な家で聞いて供の者は呆れて笑うのであった。
「傾くねえ。本当は誰よりも深くわかってるのに」
あえてそれを言わない慶次であった。しかし僧正とその弟子達の心はわかっていた。傾奇者はただそれだけで傾奇男になっているわけではないのである。そこには様々な深いものがあるのである。ただそれを言わないだけであるのであった。前田慶次はそんな男であった。
僧正の弟子達 完
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