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喫茶店
第四章
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「その中で美味しいものを食べられると。やっぱり元気が出ますよ」
「それはわしが入れるコーヒーもだな」
「はい」
 夫のその言葉にこくりと頷く。
「そうか」
「ですから。頑張って下さいね」
「わしが美味いコーヒーを入れればそれだけ人が元気になるのか」
 彼は今それがわかってきていた。
「わしのコーヒーで」
「そうですね。そして頑張ってくれます」
「そして皆が頑張れば日本も」
 話が繋がってきた。北条はそこに自分の進むべきものを見出そうとしていた。
「なあ」
「はい」
 夫婦は顔を見合わせあった。
「二人で、いや三人で日本一の喫茶店を作るか」
「日本一のですか」
「そうでなければ世界一のだ」
 彼は大きく出た。
「世界一ですか」
「わしのコーヒーで人が元気になればそれだけ日本が早くよくなる」
「そうですね」
 元気になりどんどん働いてくれれば。そうでなくとも明るくなれば。それだけで日本がよくなっていくのだ。少なくとも今のドン底はなくなる。
「だから。わしは入れるぞ」
「コーヒーを」
「そうだ、そして日本一のマスターになる」
「それが。あなたの新たに進まれる道なんですね」
「そうしたい」
 妻の言葉に強い返事で応える。
「そして日本がよくなれば」
「長い道のりでしょうけれどね」
「まずは明るくならないとな」
「ええ」
 まだ道行く人々の顔は暗い。敗戦で茫然自失となっている。それは北条も同じであった。何をしていいのかわからなかったのである。
 だが今それを見出した。ならば迷うことはなかった。
「やるぞ」
「はい」
 二人は頷き合った。
「この店を日本一の店にしてやる」
「はい、絶対に」
 まだ焼け跡が残る時代の話であった。敗戦の後の焼け跡での二人の誓いであった。

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