8 「ふりそそぐ空」
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せん。なぜかって? まあ、近いうちお分かりになるでしょう。ええ、嫌でも。
三つ編みの先にシルクのリボンを結んで、ほどけないようしっかりとピンで押さえて、と。中心に小粒の宝石が乗ったピンは、私の小指ほどの大きさも無いくせに、確実に私の月のお給金よりも単価が高いものでしょう。薄い桃色に煌めくこれは、もしかしなくともピンクダイヤかしら。ああ、1c100万ゼニー……。
「本日は午前9時からミス・クリプトンの世界情勢、その後10時半からはアードラースヘルム夫人からお茶会へのお誘いがあります。13時からミセス・ビュルクナーのダンスレッスン、15時に軽食を挟みまして16時から―――」
「ああもうよい聞きとうない!」
髪結いを終えるや否や速やかに取り出した手帳。レースとお花の模様のお気に入りなんです。可愛いでしょう? えへ、少し心が癒されました。
記された一日のスケジュールを読み終える前に椅子に座りながらにして地団駄を踏んだお嬢様は、はしたなく大声でわめき散らしました。指摘したらきっと癇癪がひどくなるだけでしょうけれども、やっぱり申し上げた方がよろしいわよね。ああでもやっぱりお気に障ったらクビ……? うう、どうしましょう!?
「何か! 何か面白いことは無いのか! わらわは退屈で死んでしまう!!」
「ですから今日は―――」
「だあああ!! レベッカ! お前なら分かってくれる筈じゃ! わらわのこの……この、どうしようも無く抑えきれないこの心を!!」
ええわかります。分かってしまうから恐れているのですとは、口が裂けても言えません! だって、私にはこのお嬢様が何を考えてらっしゃるのかとんと見当もつかないんですもの! 私が下手に口出しして、お嬢様の“おもちゃ”にされてしまったらと考えると……うう……。
だから、私はなんだかんだで結果的にお嬢様を甘やかしてしまうのです。だから懐かれるのかしら。しかし主に気に入られるのは悪いことではないから……ああでも、この後の諸々の処理を考えると……うう…胃が痛いです……。
「……ビバルディ様。実は、わたくし最近小耳に挟んだ噂がありまして」
「ふむ、噂話とな? なんじゃなんじゃ、話してみせよ」
「それがですね、嘘かまことか、『竜を従える人間がいる』というものなのです。それもただの竜ではありません。噂だとそれは、漆黒の飛竜種だとか」
お嬢様の瞳が、新緑の風に吹かれる若芽のように瑞々しく輝きました。パーティの時もこんな風に輝いたようでいらっしゃれば、少しくらいお見合いのお相手も出来るに違いありませんのに。……。やっぱり無理かも。
鏡の中の侍女の瞳が、ああやはり興味を持ったかと暗く曇ったのが分かりました。ビバルディ様はこれっぽっちも気づいてはいないようですが。いえ、
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