8 「ふりそそぐ空」
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Scene2.【きらびやかな白亜の城で、心労を重ねるとある侍女は、この日】
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「いいお天気ですねぇ〜」
「……うむ」
「……。」
「……」
「え、えと。ほ、ほら、あの鳥の鳴き声はなんでしょうかね。モズですかね。かわいいですねぇ! 秋も深まってきた感じがしますねぇ!」
「……うむ」
「…………。」
「……」
私、レベッカはほとほと困り果てておりました。原因は、言わずもがな、目の前で頬杖をついているこの少女のせいに他なりません。
身を包む真紅のドレスは細かな金糸で緻密で繊細な刺繍が施されており、一目で最高級品だと分かります。癖のある赤茶色の髪はたった今私の手によって生花を編み込まれ、みずみずしい若さに文字通り花を添えました。うん、なかなか良い趣味だと我ながら自画自賛。はっきりした彫りの深い顔立ちには赤い口紅を差して、翠玉色に輝く猫のような弧を描く目には銀のアイラインが目元に星を散らして。そこでほうっと溜息をついてしまいます。
ああ、私もこんなドレス、一度でいいから着てみたい……と。
いけないいけない。なんて恐れ多いことを! 庶民の私がこんな立派な場所で働かせていただけることだけでも、十分な幸運なのだから、ありがたくご奉仕しないと。……ええ、ありがたく…。私がどんくさいから先輩方に疎ましがられてこの方のお付きになったのは薄々承知しておりますが……。
私の他計10名にもわたる侍女の手を借りて着飾られた少女は、まさしく薔薇の精のように華やかで、可愛らしく―――
「退屈じゃ」
―――そして、不機嫌だったのです。
そう、不機嫌。不機嫌なのですよ! そしてそれが意味することすなわち。
「へ、平和でよいことですね。陛下とシルヴィア様が善政を施されておられる証拠です。うららかな今日はまさにお勉強日和ではありませんか。さあ、お2人の力に添えられますよう、本日も張り切っていきましょう!」
焦ってところどころ敬語が変なことになってしまっていますが、私にとって重要なのはそんなところではないのです。
お嬢様は表情を歪め、大きな一枚ガラスの外に見える空を睨み付けています……。ああ、恐ろしい。
私はただ鏡合わせに見える少女の口が、お願いだから弧を描かないでくれますようにと祈るほかありません。意識は完全にそちらに向きつつも手は着実に髪を編んでいっているのは、長年―――と言ってもまだ4年目ですが、体感では倍でも足りません―――この方に仕えた技術の賜物でしょう。……ああ、なぜかしら。視界が滲んできたわ。
微笑めば思わずこちらもつられて笑みを浮かべてしまうに違いありませんのに……。ああでもやっぱり笑わないで。そう願わずにはいられま
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