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喫茶店
第三章
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第三章

「ふざけおって」
 彼はよく新聞を見ては顔を顰めていた。
「何が革命だ、何が赤旗だ」
 新聞だけでなく雑誌を見ても言うことが多くなった。
「我々は日本にそんなものを持ち込ませる為に戦ったのではない」
 そしていつもこう言った。
「それから守る為に戦ってきたのだ。アカがどんな連中かわかっているのか」
 彼は満州のことを知っていた。その前のソ連の恐ろしさも知っていた。軍にいたからこそそれがよくわかっていた。だからこそ怒っていたのだ。
「そして」
 別の記事を見て怒る。
「勝った者達は。こんなことをしなかったのか。我等だけを一方的に裁くつもりなのか」
 裁判がはじまろうとしていた。所謂戦争指導者達が逮捕され裁判にかけられていた。その中には北条が個人的に尊敬する者までいた。だから彼は余計腹が立ったのだ。
「あの方は犯罪者などではない」
 彼は言った。
「あの方がその様なことをされる筈がない。これはでっち上げの裁判だ」
「そんなこと誰もわかっていますよ」
 だがそれに対する千賀子の言葉は非常に冷たい響きがあった。
「誰も」
「・・・・・・・・・」
 北条は妻の言葉を受けて沈黙する。そのまま俯いてしまった。
「けれど。今何か出来ますか?」
「いや」
 北条は妻の言葉に無念さを露わにして首を横に振る。
「今のわしには。そして日本には」
 何も出来なかった。もうそれを可能な力はなくなっていた。それは彼自身が最もよくわかっていた。
「そうです。ですから今は」
「耐えるしかないのだな」
 彼は沈痛な声で妻に問うた。
「そうです。今は」
「・・・・・・無念だ」
 呟くその言葉は泣いていた。
「我等が至らないばかりに日本をこの様な目に遭わせてしまった。御前達にも」
「構いませんよ」
 しかし千賀子は夫に対してこう言った。
「何故だ?」
「こうしたこともありますから」
「あるのか」
「はい。あなたにあの時言いましたよね」
 そして夫が切腹しようとしてそれを止めた時のことを話した。
「今はお耐え下さいと」
「ああ」
 妻に言われて彼もそれを思い出していた。
「そうだったな」
「はい、そしてそれは私もです」
「御前もか」
「あなたの妻ですよ」
 こう応えて笑った。にこりとした、優しい笑みであった。
「一緒ですよ。何処までも」
「一緒か」
「はい、今は耐えましょう」
 そして言った。優しいが芯のある強い声だった。
「また。時が来ます」
「果たして来るのか」
 どうしても悲観的になる。今の状況で未来を明るく考えることは困難であった。何もかもがなくなった時代だ。それでどうして未来を考えられようか。だが妻は今それを見据えていたのだ。北条はこれに感嘆を覚えていた。
「来ます」
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