第三章
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だが妻はまた強い言葉を北条に向けた。
「絶対に」
「来るのか」
「はい。ですからそれまでは」
「自重せよと言いたいのだな」
「左様です。それが何時かはわかりませんが」
「若しかすると。わしの生きているうちではないのかもな」
「・・・・・・・・・」
それには千賀子も答えられなかった。黙ってしまった。だがその顔は決して俯いてはなかった。
「千賀子」
彼は妻の名を呼んだ。
「はい」
そして彼女もそれに応えた。
「その日が来るのなら。わしは待とう」
「待って頂けるのですか」
「そうだ。それまではマスターをやらせてもらう」
「有り難き御言葉」
「しかしな」
それでも彼の顔は晴れなかった。
「その日が来るのは。何時になるのか。だが男に二言はない」
彼はもう迷ってはいなかった。
「待つぞ。それまで側にいてくれ」
「有り難うございます」
「文子の代になっても。いやそれ以降かも知れぬが」
どれだけの時間が経つかわからない。しかし彼はその時を待つと決めたのだ。決めたのならばもう変えない、変えたくはなかった。
「わしは待つぞ」
「はい」
二人は頷き合った。そこにはもう迷いも未練もなかった。ただ覚悟だけがそこにあった。そしてその覚悟だけで充分であったのだ。
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