高校2年
第四十九話 二人乗り
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第四十九話
冬の潮風は、体の芯にまで響いてくる。
水面より遥かに暖かい木凪とはいえ、冬は冬。風が強く、体感温度はかなり低い。港に居る斧頃島民も、皆冬の格好をしている。よそから来た者にしてみれば、案外木凪が寒い事より、島民が寒がりである事に驚くかもしれない。
「翼ー!!」
「おかえりー!!」
「おう、立派んなってのぉ!」
「見違えたぞー!」
「…………」
フェリーから降り立った翼を待っていたのは、葵だけでなく、近所の皆さんもだった。翼の姿を見ると、その帰還を拍手をもって出迎える。翼としてみれば、4度目の帰省にしていきなりのこの高待遇(?)には戸惑いを隠し切れない。
「俺、一体全体何かしたっけ?」
思わず翼が葵に尋ねると、葵はしれっとした顔でそれに答えた。
「うーん。やっぱ、州大会で翼の勇姿を拝んだけんやない?」
「え?それ関係ある?」
「まぁ、実際に野球しよる姿見て、翼がほんまに水面で頑張りよるって事に気づいたってゆうか……」
「……そんなもんなのかなぁ」
逆に言うと、州大会で彼らの前でプレーするまでは、水面への野球留学は少し疑わしく見られていたという事だ。翼にとってはそちらの方がショックだが、しかしそれも仕方ない。野球留学と言えど、実際に何を毎日してるかまでは、直接地元の人達に見せる事はできないのだし。
「なぁ葵」
「ん?何?」
「船の中からメールした話、OK出た?」
「あ、うん。夕方に家に来いだってさ」
実はこの帰省、翼にはただの骨休め以上の目的があった。会いたい人物が居たのだ。もちろん、野球に関する人物である。
「よーし」
帰省だと言うのに、翼には気合が入っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……速くなったね」
「ん?」
翼と葵は、島の反対側の街に自転車を二人乗りして向かっていた。もちろん、漕ぐのは翼の役目である。自転車のスタンドに、これまた器用に横を向いて乗っかっている葵は、息一つ切らす事なく自転車を漕ぎ続ける翼に驚いていた。
「あたしも乗ってるんに、めっちゃ速いけん」
「ああ、走り込みに比べたら随分と楽だよ。」
翼は何ともない顔をして、更にスピードを上げた。葵はにっこりと笑って、その背中に肩を預けた。風を切って走るのは寒かったが、翼の体だけが暖かかった。
二人が乗った自転車は、ある家の前で止まった。
その家の表札には“知花”と書かれていた。
「……ごめんくd」
「おー、来たな色男」
翼が玄関をノックし、人を呼ぼうとすると、ドアは内側から勝手に開き、よく日焼けした眉毛の濃い顔がぬっと姿を表した。
三龍を州大会の準々決勝で破り、春の選抜甲子園出場を決めた南海学園の主将。
そこに
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