第百六十四話 二兎その十
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「拙僧もじゃ」
「法主様もですか」
「そう思われますか」
「徳のある僧侶の気配ではない」
崇伝の気配、それはというのだ。
「妖僧と言うべきかのう」
「それに近いですな、どうも」
「あの方は」
「若し天下人の傍にあれば」
その時はというのだ。
「必ず恐ろしいことを吹き込むj」
「では公方様は」
「あの方は」
「危ういかもな」
その可能性もだ、否定しないというのだ。
「幕府は」
「既にもう何の力もないとはいえ」
「それでもですか」
最早幕府は都の一角にあるだけの存在になっている、山城一国はおろか都さえ治められぬまでになっている。都も織田家が治めているのだ。
だが、だ。その幕府でもだというのだ。
「仮にも武門の棟梁、その幕府に入っているとなると」
「最早幕府はですか」
「その中身は」
「既にもう命脈は尽きておる」
顕如はわかっていた、このことも。
「応仁の乱、そして義輝公への弑逆でな」
「そしてその幕府にあの方がおられることにより」
「余計に」
「しかももう一人おる」
崇伝だけでなく、というのだ。
「天海殿がな」
「あの御仁も怪しいですな」
「どういう御仁か」
「わからぬ」
その素性さえ知れぬというのだ。
「この話は受けるがな」
「あの御仁はですか」
「今後は」
「信じぬ」
天海も含めてだ、そうするというのだ。
「信じてはならぬ御仁なのは間違いないからな」
「しかし法主様」
ここで顕如に声をかけてきたのは龍興だった、越前からこの石山まで強硬派と共に来た彼である。
「織田家との戦は」
「うむ、今は和議を結ぶがな」
「やがてはですな」
「また戦う」
そうするというのだ。
「石山だけになったがな」
「左様ですか」
龍興は顕如の今の言葉を聞いてほっとした顔になった、そしてそのうえで彼に対してこうも言うのであった。
「ではその時は」
「うむ、門徒達には声をかけぬ」
それはしないというのだ。
「最早な」
「そうなのですか」
「それはですか」
「せぬと」
「そうじゃ」
こう高僧達にも話すのだった。
「決してな」
「つまり門徒達を戦には巻き込みませぬか」
「もうよい」
それはというのだ。
「今でもやはりすべきではなかった」
「門徒達を戦に巻き込むことは」
「それはな」
後悔と共にだ、こう言う顕如だった。
「灰色の衣の者達は殆ど戦わなかったがな」
「本来の門徒達は」
「あの者達は」
高僧達もこのことについて応える。
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