第百六十四話 二兎その九
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「楽しみにしておれ。ではよいな」
「陣払いを」
「それを」
「兵達もよくやってくれたわ」
彼等のことについても言うのだった。
「わしもまた果報者じゃ、竹千代と同じくな」
「いえ、吉法師殿はそれがし以上の果報者かと」
その家康が言ってきた。
「これだけの方々がおられるのですから」
「お主以上か」
「所帯が大きいだけに」
「ははは、そう言うか」
「無論それぞれの質では負けておりませんが」
家康はこのことについては胸を張って言った。
「当家もまた」
「その忠義ではか」
「左様です」
「わしの家臣達は数が多く皆というか」
「相当な方々です」
家康は笑顔で言う。
「だから大事にされるのですな」
「そこから先を言わせるか、わしに」
「いえ、ここで止めます」
信長のこうしたことはあえて多くは言わない性格を察しての言葉だ。この辺りは気配りを忘れない家康である。
「それでは」
「そうか、ではじゃ」
「都にですな」
「皆向かうぞ、よいな」
その和議の為にだ、信長は摂津のことと兵達を戻すことについては信行、信広に任せた。そのうえで都に向かうのだった。
和議の話は顕如にも来ていた、顕如は崇伝から話を聞いてすぐに答えた。
「あいわかり申した」
「それではですな」
「公方様のお言葉謹んで受けまする」
こう答えるのだった。
「そうさせてもらいます」
「それではですな」
「すぐに都に向かいます」
そうするというのだ。
「ただ。その際は」
「何かありますか」
「織田家とその軍勢とは会わぬ様にします」
このことは気をつけるというのだ。
「ここで会えば下手な悶着が起こります故」
「そうですな、そうされた方が宜しいかと」
崇伝は顕如の言葉ににこりともせず答えた。
「それではですな」
「二条城に赴きます」
このことを約束してだった、そのうえで。
顕如もまた義昭からの和議の仲裁を受けた、そうしてだった。
都に向かう用意をする、だがその前に。
崇伝が石山御坊を去ってからだ、周りの者達崇伝と会っていた時も共にいた彼等に対して険しい顔で問うた。
「どう思うか」
「崇伝殿ですな」
「あの方ですな」
「うむ、どう思うか」
こう問うのだった。
「あの御仁は」
「只者ではないかと」
「どうにも怪しい方ですな」
「名札を預かっている方ですが」
「それでも」
南禅寺の住職だ、それでもだというのだ。
「気配が尋常ではありませぬ」
「まるで闇です」
「法力も相当だとのことですか」
「まるで妖力です」
「その様なものを感じます」
「御主達もそうか」
彼等の言葉を聞いてだ、こう言った顕如だった。
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