第百六十四話 二兎その七
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「和睦か」
「はい、それが公方様のお考えです」
天海はこう言うのだった。
「民を悲しませぬ様に」
「本願寺とか」
「宜しいでしょうか」
「待たれよ、それは」
最初に言って来たのは柴田だった、信長と天海のやり取りを聞いて。
「今ここで本願寺との和睦とな」
「左様です」
「ここで和睦をすれば本願寺が生きるだけじゃ」
それでだというのだ。
「ここで本願寺が残ればどうなるか」
「どうなると」
「また一向一揆を起こす、他の大名と結ぶ兵を起こすやも知れぬ」
だからだというのだ。
「その和睦は受けられる」
「権六殿の言われる通りかと」
続いてだ、佐久間も言った。
「殿、ここはです」
「和睦してはなりませぬ」
「ここは公方様に詳しくお話してです」
林も言って来た。
「いえ、公方様には後かわお話し今すぐにです」
「本願寺を攻めましょうぞ、石山を」
今度は前田が言って来た、皆義昭の言葉は受けられぬというのだ。
「ここは」
「そうです、ここはです」
「今すぐに石山を攻めてです」
「石山御坊を攻め落としましょう」
「是非共です」
「そうしましょうぞ」
「今ここで」
こう言うのだった、そうしてだった。
誰もが義昭の和睦の命を無視してまで石山を攻めようと言うのだった、ここで石山を攻め落とさねばどうなるかわかっているからだ。
だからだ、絶対にと言ってであった。
「殿、そうしましょう」
「ここはです」
「是非にもです」
「何、公方様には後でお話しましょうぞ」
「そうすればいいです」
「ですから」
皆こう言う、だが。
信長は彼等の顔を見た、最早誰もが限界を越えている。それは兵達もだ。
今攻めればどうなるか、彼等は。例え石山を攻め落とせても。
そのことを考えた、それでだった。
信長は腕を組んだまま瞑目してだ、こう言ったのだった。
「わかった、では天海殿」
「まさか殿」
「ここで」
「公方様のお言葉有り難く思う」
これが彼の返事だった。
「是非な」
「有り難きお言葉。それでは」
「石山は攻めぬ」
このことをだ、今天海に告げた。
「そのことを約束しよう」
「では和議の場ですが」
「何処になるのかのう」
「二条城でどうでしょうか」
まさに義昭の場だ、そこでだというのだ。
「茶を飲みながら」
「わかった、では二条城に参上しよう」
こう答えてだ、そしてだった。
信長は天海に和議のことを約束した、天海はその言葉を受けて満面の笑みで陣中を後にした、だがその後で。
家臣達は皆困惑している顔でだ、こう信長に言うのだった。
「殿、何故ですか」
「何故和議を結ばれるのですか」
「ここで本願寺を討たねば」
「石山を攻め落とさねば」
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