3部分:第三章
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第三章
「他のでも飲むけれどメインはそれだよ」
「そばか」
「こんなドテ焼きとかお好み焼きで飲んだりしないぞ」
「それが大阪だよ」
「これもか」
「美味いだろ?」
「味が濃過ぎる」
こう言って相手に抗議する。
「こんなに濃いのがあるのか」
「ここにあるじゃないか」
「こんなの大阪だけじゃないのか?」
「大阪にしかない美味い食い物だよ」
完全に大阪人になっている言葉である。
「この酒だってな」
「好きになれないな」
「まだ言うのか」
「この近くにあるあれだよ。あの吉本の」
「なんばグランド花月か」
「テンション高過ぎるだろ」
酒を飲みながら顔を顰めさせて話す。
「何だかんだで騒がしくてな」
「明るくなっていいだろ」
「そうか?」
「何だ、吉本は嫌か」
「ああ、嫌いだ」
実にはっきりとした返答だった。
「好きになれない」
「どうしてだ、それは」
「あんな騒がしいのの何処がいいんだ」
「御前漫才とか落語とか駄目なのか」
「関東のは観るぞ」
それはだというのだ。
「けれど吉本にしても松竹にしてもな」
「駄目なんだな」
「テンションが高過ぎるだろ」
「というか関東のあれが静か過ぎるんだよ」
相手の意見はこうであった。
「あんなの全然よくないだろ」
「そうか?」
「長野はもっと静かだよな」
完等の話をしてからの言葉だ。
「そうだよな、やっぱり」
「ああ、そうだよ」
それを猛久自身も認める。
「静かで大人しいよ、長野はな」
「それで吉本はか」
「精々さんま位だ。あれも騒がしいと思う時があるからな」
「さんまはあれで大人しくなったぞ」
相手は言う。
「もうちょっと若い時のああいう感じでな」
「いつもやられてたまるか。とにかくな」
「ああ、とにかくな」
「俺は吉本は好きになれない」
あらためて言う彼だった。
「大阪のお笑いはな」
「やれやれ。上方文化は駄目か」
「駄目も何も受け付けないんだよ」
そうだというのである。
「どうにもな」
「そうか。まあそのうち慣れるさ」
「慣れるとは思わないがな」
「大阪はそうした場所なんだよ」
ところが彼は言う。
「慣れてそれでな」
「それで?」
「もう離れたくなくなるんだよ」
そうなるというのである。
「それが大阪なんだよ」
「そうか?俺はそうは思えないけれどな」
「まあ飲め」
ここでまた話す猛久だった。
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