第一章
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はいた。
「ねえお母さん」
夏実は早速美代子に声をかけてきた。
「何お化粧なんかしてるのよ」
「えっ、だって」
見れば美代子はいつもよりも濃い目に化粧をしていた。服もブランドものの一張羅だ。
「人と会うのよ。やっぱり」
「私が言ってるのはそんなのじゃないの」
娘は口を尖らせて言う。
「そんなにおめかしして。私なんかいつもと変わらないのに」
見ればシャツにジーンズのラフな格好であった。家の中にいるのと何ら変わることのない感じだ。彼女はわざとこうした格好をしたのだ。それが意志表示であった。
「それでもね」
「言い訳はいいわよ」
口籠る母に対して言った。
「とにかく会うんでしょ、今から」
「ええ」
「会うだけならいいわ。けどそれだけよ」
それだけ言うと後はもう黙ってしまった。彼女は黙りながら自分の父親のことを思い出していた。
父は明るくて爽やかな人柄だった。容姿もスラリとしていて颯爽とした若々しい美男子であり幼い彼女にとって自慢の種だった。その父が亡くなった時彼女は泣いた。思いきり泣いた。だがそれは美代子も同じだったのだ。それなのに。今彼女は母の再婚が裏切りにさえ思えてどうしようもなかったのだ。
(何でよ)
テーブルに肘を付き顎に手を当てて憮然として思う。
(今更再婚なんて。何考えてるのよ)
そうは言ってもこれから会うことは事実だ。それはもう止められない。渋々ながらついてきたのだ。もう覚悟を決めるしかなかった。
やがて前から誰かやって来た。来たのは小柄で頭の禿げた太った中年の男性だった。顔から流れる汗を拭きながらこちらにやって来る。
「!?」
夏実はその中年男性を見て顔を顰めさせる。そして母に尋ねた。
「若しかしたらと思うけどさ」
その御世辞にもハンサムとは言えないむさ苦しい男性を見ながら言う。
「あの人?」
「そうよ」
美代子は答えた。
「あの人がそうなのよ。お母さんの再婚相手」
「冗談でしょ」
声の不機嫌さのボルテージがあがった。
「あんな人と再婚するなんて。お父さんと全然違うじゃない」
「男の人はね、外見じゃないのよ」
「どうだか」
ある程度は許せるがそれでも限度があった。
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