出迎え
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的に、手が滑ったと思慮いたします」
どんな滑り方だと思わないでもなかったが、フェーガンとの会話はまだ十六ほどの少女に聞かせて良い話でもなかったため、アレスは頭をさすりながら黙認することとした。
ライナ・フェアラート。
現在は士官学校の二学年となる。
卒業式より半年ほどしか経てないが、この年頃の子供は数日で成長する。
見覚えのある姿よりも少し背が伸びて、ほんの少し大人びた表情。
何よりそれまで彫刻のような美しさが、いまはどこか人間的な美しさも内在していた。
現に唇を尖らせて、アレスを非難するような様子は、どこか子供じみている。
そんな友人の様子に、小さく微笑みながらフレデリカが口を開いた。
「先輩。お帰りなさい」
「ああ。わざわざ迎えに来てくれるとは思わなかった」
「ふふ。ライナがどうしても行きた――」
「御無事で何よりでした!」
慌てたように言葉を重ねるライナに、アレスは目を細める。
おそらくは彼女の成長は、同期であるフレデリカの力にもよるところだろう。
二人の後輩の成長を嬉しく思いながら、アレスはもう一度ありがとうと礼を言った。
フレデリカが恐縮したように頭を下げてから、しかし、あがってきた表情はどこか怒ったような顔。
「心配したんですよ?」
その理由を告げられて、アレスは頭をかいた。
父親から聞いた言葉によれば、当初の話では基地がほぼ全滅したとの情報も流れたらしい。それがニュースとして流れる状態にも、苦笑したが、身近なものがカプチェランカにいるものにとっては内心では心配だったのだろう。
別に大丈夫だと答えようとして、アレスは口に出しかけた言葉を飲み込んだ。
目の前にいる二人はただの学生ではない。
士官学校の学生であって――数年後にはアレスと同じ立場にいるかもしれないのだ。
大丈夫と誤魔化すわけにもいかない。
かといって、戦場の恐ろしさなどと説教じみた話をする気にもならない。
返答に戸惑っていると、覗き込むようにライナの顔が近づいた。
逃げようとしたところで顔の両端を両手で掴まれる。
真っ直ぐな視線と、薄い唇が間近に迫った。
小さく目を開いたアレスとは対照的に、ライナは真剣だ。
「目をどうされたのですか」
「近くでプラズマ手榴弾が爆発してな。部下のおかげで無事だった」
ライナの小さな指が傷を撫でる。
くすぐったさとともに気恥かしさを感じれば、逃げるように顔をそらす。
それでもライナの顔は近いまま。
背伸びをして、覗き込む様子にアレスは頬をかいた。
「詳しい経緯を私は何も知りません。ですが、ですが。私は――先輩が御無事で嬉しく思います」
視線同様の真っ直ぐな言葉に、アレスは軽口を言うことも忘れた。
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