救世主
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る。
声だけじゃない。フィレーシアンを握る手も、足も、身体全体が震えている。
ライアーは視力はいい方だが、今回ばかりは自分の目が悪くなったのかと疑った。
自分の目に映る者が現実なら、そこにいるのが確かなら―――――。
「ティア!」
叫んだのは、少女の名。
想って想って想い続けて、結局そのまま何年もの月日が経った相手。
カトレーン本宅にいる筈の彼女が、そこにいた。
彼女の師匠のような服を纏い、髪をポニーテールに結えて。
「何で・・・貴様、何のつもりだ!」
「何のつもり、って・・・そうだなぁ、殺しちまうには惜しいし、オレの女にでもするか」
「なっ・・・!」
ティアの白い頬をスーッと撫でる。
歪んだ笑みを浮かべるヒジリを、無意識のうちに鋭く睨んでいた。
1度抜けかけた力が戻る。
驚愕で震えていた体が、今度は怒りで震えていた。
「貴様・・・ッ!」
「ははっ!冗談に決まってんだろ?ティア嬢に手ぇ出したとなりゃ、オレはシャロン様に殺されちまう」
溢れそうな感情を必死に抑え込もうとするライアーを、ヒジリは心底可笑しそうに笑って眺める。
もしライアーが炎の魔法を使っていたなら、辺りの温度は急激に上がり、陽炎さえ見えていただろう。
「それにコイツは幻影・・・ニセモンだ。ホンモノは本宅にいる」
「何!?」
「言ったろ?特殊拘束って。ティア嬢から魔力を少し拘束させてもらった。で、その魔力でティア嬢の幻作っただけだ。ホンモノそっくりだろ?」
ケラケラと、ヒジリは笑う。
確かにそっくりだ、と思った。
眠るように(実際に眠っているのだが、それをライアーは知らない)目を閉じ、白い肌に映える青い瞳は姿を隠している。吐息を零す小さな唇。スッと通った鼻筋に、華奢な体型。手足はスラリと長く、典型的な(何て言ったらクロスが激怒しそうだが)美少女である。
「それで・・・貴様は一体何がしたい。ティアの幻を作る必要があるのか?」
「必要ねーなら作らねぇよ」
嫌な予感がした。
気づかぬ内に、じっとりと汗が滲む。
ごくり、と唾を呑み込み、嫌な予感が予感で終わりますようにと祈る代わりに、フィレーシアンを握りしめた。
「見えるか?ティア嬢の左腕。模様があるだろ?」
「・・・ああ」
頷くのは何となく癪だが、その通りなので頷く。
ティアの白い左腕。
そこには、禍々しくも美しい模様が、ブレスレットのように輪になって巻き付いていた。
「これは生体リンク魔法の一種でな。対象を攻撃すると、別の人間がその分の痛みを負うってモンなんだ。で、この幻は“対象”・・・」
「・・・まさか」
嫌な予感は、予感で終わってくれなかった。
溜息をつきそうになって、
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