第百六十四話 二兎その六
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「ですから」
「それでか」
「石山も攻めましょうぞ」
今ここでだというのだ。
「では急ぎましょう」
「左様か」
「左様であります」
平手は笑って応えるが信長の表情は硬い、そして石山を囲んでいる信行と彼が率いる将兵達もだった。
疲れを隠せない、だが信行も明るい声でこう言うのだった。
「では今よりですな」
「石山攻めじゃな」
「この時を待っておりました」
こう言うのだった。
「ですから何時でもです」
「攻める用意は出来ているか」
「後は兄上がお命じになられるだけです」
まさにそれだけだというのだ。
「今にもそうして頂ければ」
「左様か」
「はい、では」
信行も疲れきった顔で言う、身体の疲れを気でもたせている顔だ。その顔で信長の言葉を待っているのである。
そして柴田達もだ、口々に言って来る。
「殿、では今より」
「我等は何時でもいいですぞ」
「ここで殿の禍根を消しましょう」
「そうすれば殿は枕を高くして寝られます」
「ですから」
自分達のことはいいとしていた、あくまで織田家と信長のことを思っていた。誰もが心よりそう思い言うのだ。
信長も彼等の言葉を受けるしかなかった、そうして。
言おうとした、だがここで。
足軽の一人が慌てて本陣に駆け込んできてだ、こう言ってきた。
「殿、公方様よりの使者です」
「何っ、公方様からか」
「はい、どうされますか」
「お通しせよ」
こう答えるしかなかった、義昭の使者ならばだ。
「すぐここにな」
「はい、それでは」
こうして義昭からの使者が通された、来たのは天海だった。明智は彼の顔を見てすぐに険しい顔になり丹羽に囁いた。
「あの御仁は」
「うむ、常に公方様のお傍におられるというが」
「百二十歳になるとも言われております」
「確か武蔵の生まれだったか」
「はい、しかし」
それでもだというのだ。
「その素性はえて知れず」
「何者かわからぬな」
「全くです」
そうしただ、怪しい者だというのだ。
「法力は相当なものだとのことですが」
「法力はか」
「しかし法力といっても色々です」
それでだというのだ。
「左道や妖術にも通じておるとか」
「そうした御仁か」
「妖僧と言っていいかと」
それが天海だというのだ。
「もうお一人の公方様の今の側近である崇伝殿と共に」
「あの御仁もじゃな」
「油断のならぬ方です」
明智は天海をまるであやかしを見るかの様に見ていた、そのうえでの顔だった。
「その方が来られるとは」
「これはよい話ではないかのう」
「はい、我等にとっては」
そうではないかというのだ、そしてだった。
天海は信長の前に来た、そのうえで一礼してから言って来た。
「南光坊天海です」
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