第百六十四話 二兎その三
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「それでよいか」
「異存はありませぬ」
家康は微笑み信長の言葉に応えた。
「それでは」
「うむ、ではな」
こうしてであった、信長は紀伊の各地に兵を向かわせて一向宗を倒した後の収めとした。そうしてであった。
信長も自ら紀伊の、とりわけ一向宗の力が強かった場所に向かい収めにかかった。その途中においてだった。
彼は民達も出迎えを受けた、皆信長に酒や米を差し出し言うのだった。
「どうかお収め下さい」
「我等は織田家に歯向かうつもりはありませぬ」
「ですからどうか」
酒や米を収めてそのうえで無体はしてくれるなというのだ。
「お願いします」
「わしは飲まぬ」
その民達にだ、信長はまずこう答えた。
「酒はな」
「ですがこれは」
「是非」
「しかし兵達が飲む」
民達に気さくな笑みを浮かべての言葉である。
「そして兵達が飲んで食っても面白くない」
「と、いいますと」
「どういうことでしょうか」
「御主達も飲め」
そして食えというのだ。
「兵達と共にな」
「そうせよとですか」
「お侍の方々と共に」
「そうじゃ、わしも米は好きじゃ」
確かに信長は酒は飲まない、しかし飯は好きだというのだ。
「他のものな」
「それでは」
「うむ、共に楽しもうぞ」
飲んで食いそうしてだというのである。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「そうさせて頂きます」
こうして信長は民達から献上された酒や米を兵達だけでなく民達にも飲み食いさせて楽しんだ、そしてある寺では餅を献上されたが。
その餅を見てだ、信長はここでも笑ってこう言った。
「多いわ」
「多いとは」
「百個はあるのう」
見れば献上された餅の数は多い、確かに百はある。信長は今は寺の渡り廊下のところで僧侶達と会っている、中庭には兵達が護衛でいる。
その場においてだ、その百個はある餅達を前にして言ったのである。
「こんなに食えぬわ」
「しかし」
「わしは。そうじゃな」
ここで信長は小柄を出して餅を数個刺した、そのうえでその数個の餅を食ってだった。
中庭の兵達にその餅、それぞれが入った箱を廊下のところに置いてだ、彼等に言ったのである。
「並べ、順番でな」
「えっ、殿まさか」
「その餅をですか」
「そうじゃ、御主達が食え」
こう兵達に言ったのである。
「よいな」
「しかしその餅は」
「殿が」
「だからわしはこんなに食えぬわ」
信長は兵達にも笑って言うのだった。
「それなら御主達が食え、食えなかった者は後でわしが餅をやる」
「そして餅を食えとですか」
「我等に」
「そうじゃ、一人一個ずつじゃ。並んで食うのじゃ」
兵達を並ばせてそのうえで餅を食わせた、信長は飲めぬ者食えぬものはどんどん民や兵達に与え
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