第百六十四話 二兎その二
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だからだ、この時にだというのだ。
「一気にです」
「紀伊を収めるべきか」
「そう思いますが」
「紀伊は八十万石、しかも蜜柑や梅も実る」
ここで信長は紀伊の国のこと自体を話した、
「海に広く面しており海産のものもあればよき港も多い」
「豊かな国ですな」
「しかも本願寺達の後ろも抑えられる」
「ではここは」
「やはり抑えるべきじゃな」
信長は確かな顔で言った。
「今ここで」
「そうかと」
「しかしじゃ」
信長はここで盛政の言葉を思い出しながら諸将を見る、無論羽柴の顔もだ。信長はその彼等を見て言おうとした。
だが、だった。今は言わなかった。誰もがここは攻めるべきだと言うとわかっていたからだ。織田家の為に。
だからだ、今も言わずにいてだった。その代わりにこう言った。
「よい、ではな」
「はい、紀伊を」
「越前と同じく兵を分ける」
そうしてだというのだ。
「それで紀伊の残る門徒達を掃討し国人達で歯向かう者があれば攻めよ」
「はっ、わかりました」
「それでは」
「それでじゃが」
信長はさらに言う。
「門徒達が逆らわず降るなら許せ」
「無駄な殺生はですな」
「せぬことじゃ」
ここでもだ、そうしろというのだ。
「よいな」
「これまで通りですな」
「そうせよと」
「そうじゃ、今はな」
こう言ってだ、これまで通りにせよと告げてだった。
信長は今は諸将にそう命じたのだった。
「ではそれぞれ兵を率いてな」
「はい、行って参ります」
「それでは」
「わしもじゃ」
信長自身もだというのだ。
「自ら兵を率いて収めてくる」
「殿もですか」
「そうされますか」
「うむ、人手は多い方がよい」
それだけ兵を送れて国を収められるというのだ。
「だからじゃ、それでよいな」
「しかし殿ご自身が行かれるとは」
ここで言葉を出したのは村井だった、所謂諫言である。
「あまり」
「よい、今はな」
「左様ですか」
「今は時がな」
少しでも欲しいというのだ、織田家にしても早いうちに石山を攻めたかった。攻めるのはもう難しいにしてもその可能性はまだ諦めていない。早いうちに済ませられれば、紀伊を収められれば疲れも少なく済むからだ。
だからだとだ、信長は自分も出ることにしたのである。
「ではよいな」
「畏まりました、それでは」
「それぞれの軍を率いる者には奉行もつける」
これもこれまで通りである。
「ではすぐに発て」
「畏まりました」
「竹千代及び徳川の者達はわしと共に来るのじゃ」
信長自ら率いる織田家の本軍とだというのだ。
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