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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十四話 主権者
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を分かち合う制度です。委員長は軍だけではなく政府でも大きな影響力を持ち始めた、経済界にもです。危惧せざるを得ない、これはおかしな事でしょうか?」
「なるほど」
頷いてはいるが何の感銘も与えていないのが分かった。ヤン提督が眉を顰めた。委員長の反応が不愉快だったのだろう。
「委員長、貴方は典型的な帝国風のエリートなのではないかと私は思います。民主共和政国家ではなく専制君主政国家でこそ力量を発揮する。つまり権限が大きくなればなるほど力量を発揮する。ヴァンフリート、イゼルローン、フェザーン、貴方が大きな権限を持った時、同盟は勝利した。違うと言えますか? 私には今の貴方は窮屈そうに見えますが……」
委員長がジンジャーエールを一口飲んだ。
「権限が大きくなればなるほど力量を発揮する。別に私だけの事ではないでしょう。確かに今私は窮屈だと感じていますがそれは政治家に成りたくなかったからです。自分の持つ権限に不満が有っての事じゃありません」
ヴァレンシュタイン委員長は苦笑を浮かべている。ヤン提督は納得したようには見えない。
「影響力と言いますが人間が共同体を形成する以上、影響力を有する人間が出るのは已むを得ない事でしょう。動物だって群れを造ればボスが居るんです。大きすぎるとか強すぎるとか言って危惧するのはナンセンスですよ。危惧するべきは影響力を持った人間がその共同体をどのような方向に導こうとしているかではありませんか?」
「……」
委員長の苦笑は止まらない。そしてヤン提督も納得はしていない。
“どう思います?”と委員長がミハマ大佐と私に問いかけてきた。ミハマ大佐は“少々危惧が過ぎると思います”と申し訳なさそうに答えた。私は“分かりません”と言って答えを濁した。正直私も危惧が過ぎると思わないでもない。しかしヴァレンシュタイン委員長の力量が尋常なものではないのも事実だ。
彼は未だ二十二歳、私と同い年なのにその知力と識見の深さはヤン提督を凌ぐだろう。トリューニヒト議長も委員長を頼りにしていると言われている。父、グリーンヒル本部長代理も言っていた、到底自分は委員長に及ばないと。ヤン提督の危惧が杞憂と言い切れるだろうか?
「例えばです。今影響力を持っている人間がアーレ・ハイネセン、グエン・キム・ホアだったらどうします? それでも貴方は危険視しますか?」
「……」
ヤン提督の表情が険しくなった。じっと委員長を見ている。
「しないでしょうね。つまり貴方が危険視しているのは影響力じゃない、私という個人でしょう。私に対する不信感を影響力と言って危惧しているだけだ。正直じゃありませんね、不愉快ですよ」
音が消えた。先程まで有った食事をする音が。皆手を止めて黙っている。ヤン提督は顔を強張らせていた。そんな提督を委員長は醒めた目で見ている。
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