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星の輝き
第41局
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のままに気分を高め、荒ぶる人もいる。名人クラスになると、緊張を何か一段階上のものに昇華してるんじゃないかと感じることもある。相手の緊張感が、何か威圧のようにこっちにまで伝わってくるんだ。怖いくらいにな」

 緒方の言葉に、奈瀬は深く考える。自分は明らかに普段の碁が打てていなかった。結局、プロ試験の空気に呑まれていたのだろうか。緊張感を感じ取れないほどに。

「囲碁の強さって、結局技術だけじゃないと思うんだ」
 そんな奈瀬を見ながらヒカルは静かに言葉を続けた。
「よく言うじゃん、心技体。心と技術と体力。囲碁の場合、まずは技術が必要なのは確かだ。まあ、段位が目安になるかな。そして、精神力としての心。自分の緊張感をもしっかりと捕らえて、自分の力に変える強さ。最後に、その精神力を対局の最後まで維持するための体力。どれがかけても、同じ力を持った相手には勝てない」
「心技体か…」
「心を鍛えるには結局は経験をつむしかないと思うんだ。そして、きつい言い方になるけど、奈瀬にはまだ足りてなかった。プロになるには力不足だったってことだと思う」

「進藤!何もそんなきつい言い方をしなくてもいいじゃないか!」
「……いいの、塔矢君。ヒカル君の言う通りだと思う。結局は私がまだプロになれるレベルに届いていなかったってことなんだと思う」

 ヒカルの言葉に思わず声を上げたアキラ。そんなアキラに感謝の目線を送りながら、奈瀬は続けた。
「私は正直言って、ヒカル君に会わなかったら今のレベルには届いていなかった。去年のプロ試験と比べたら、これでもすっごい良くなってるの。でも、まだ足りてない。届いていないって思い知らされた」
 そして、奈瀬はヒカルの目をまっすぐに見た。
「ヒカル君、お願い。厚かましい押しかけ弟子で申し訳ないんだけど、私はもっと強くなりたい。これからも、私に教えてくれるかな?」

「まぁ、今まで通りでよければね。俺のできる範囲で協力するよ」
−私も私も!ビシビシ指導してあげますからね!
 ヒカルはにこっと笑いながら、佐為は笑顔で扇子を振り回しながら奈瀬に返事を返した。もっとも、奈瀬には佐為は見えてはいないのだが。

「ありがとっ!」
 奈瀬は、こぼれんばかりの笑顔を振りまいた。
「あ、塔矢君、これからもこの場所都合がつく限りでいいから貸してね。そして、ずうずうしいけど指導碁もお願いね」
「ああ!もちろんさ!な、奈瀬さんのおかげでこの勉強会ができて、僕もすごく嬉しいんだ。いつでも声かけてよ!」
 笑顔の奈瀬に正面から見つめられて、アキラは顔を真っ赤にしながらも答えた。

「……やっぱり、プロになろうと思ったら中途半端な覚悟じゃだめだよね。私も院生に入るべきかな」
 思わずこぼれたアカリの声に真っ先に飛びついたのは奈瀬だ。


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