三話
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伸太郎はテストがなくなった事なんて、気にも留めていない様子だった。テストの答案なんて、どうでもいいんだろうか。
国語の時間はテストの答え合わせだったけど、彼の机には筆記具すら出ていなかった。
彼はわたしの方を見ている。うわぁ、真剣な顔。思わずコンパクトをとり出してしまう。青のりとか付いてないよね。こうじろじろ見られちゃ落ち着かないよ……。
「なに見てるの?」
小声で聞いてみる。わたしたちの席は教室の窓側、その隅っこに二つ並んでいる。わたしは密かにお内裏様とお雛様みたいだなぁって思っているけど、分かってくれたのはカノちゃんだけだった。
「空」
これが本当の上の空、ってやつか! なんて、そんなオヤジギャグをかましたら、彼はブリザードのような視線をくれるだろうから黙っておく。
「楯山、楯山!」
「は、はい?」
「問二の問題、答えてみろ」
ああ、失敗した、考えるのをすっかり忘れていた。わたしはクラス内でもちょっとドジなタイプで通っているし、舌を出しておけばなんとかなる。クラスは湧き、先生は「やれやれ」って言いつつ笑ってゆるしてくれる。そうしてクラスの均衡が保たれて、めでたしめでたし……のはずだった。
「二だよ」
ってなんでアンタが答えてんの! 答案を見ていないってことは、テストの内容を覚えてしまっているのだろうか。ぶっきらぼうに視線をそらしつつ、投げやりに答える姿は、まるでバカなクラスメートを嘲笑しているみたいだけど、本当はそんな子じゃないんです。誤解なんです。バカなのはわたしだけなんです。
「伸太郎、お前は当てていないぞ」
先生怒っちゃってるし、こっちに向けられる視線も、どこか冷たい。わたしはまるで、舞台に取り残された道化のように、へらへら笑いながら着席した。
あははは、どうも、すいません、わたしがダメなばっかりに。
それで済まされるならば、いくらバカにされてもぜんぜん構わないのだけど、視線の矛先はまっすぐ伸太郎にむけられていて、わたしは肩を縮こませて、机もすこし、離してしまう。
対伸太郎会議が女子トイレの中で開催されていた。クラスの一員であるわたしは、否応なくそこに巻き込まれた。耳を塞ぎたくなるような罵声の数々は、わたしの胸にも破片が突き刺さった。
死ねとか、殺したいとか、なんでそんな簡単に、口にできるの? そんな空気の読めないことは言えない。庇ったら、わたしまで標的だ。
「この前の、ぜんぜん効いてないじゃん」
「ふつーに無くしたと思ってんじゃない? あいつ、鈍いから。頭でっかちなんだよ」
伸太郎は鈍くなんかない。彼はテストが失くなったことも、それをわたしたちが隠したことも、全部お見通しなんだ。
それがわかっていても、彼がなにを思っているのかはわからない。低レベルなわたしたちのことを、見下
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