奴隷に人権の無い世界
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完全にオーバーキルだが、それでも上下左右前後を見渡し確実にオーガを消滅させたことを確認する。 足がガクガクと震え膝を付きそうになるが、何とか踏ん張った。 膝をついて傷をおい失格、なんてことになったら笑い話にもならない。
《 S-01、最終試験――合格です 》
不意にそんなアナウンスが闘技場内に響いた。
(や……やった――)
「よ……よっしゃあぁあああああ!!」
両手を高々と挙げ叫んだ。 そのまま仰向けに倒れこむ。
(ああ……これで――)
ザッと地面を踏みしめる音が聞こえ、続いてパチパチという拍手が俺の耳を打った。
誰かが近づいてくるのを俺は仰向けになったままじっと待つ。
「合格条件その1。 オーガを、一切の傷を負わずに一撃で屠ること。 少々やりすぎだったが、完璧な闘いだったね。 最終試験合格おめでとう、S-01」
その声に、俺はようやく上半身を起こす。
見上げるとサラサラとした黒髪の男が穏やかに微笑んでいた。
何の特徴も無い凡庸な顔。
しかしその光を映さない漆黒の瞳は何処までも深い闇を孕んでいるように見える。
俺の唯一無二のマスター。 そんな彼のことが俺はどうにも苦手だ。
それでも、抑えきれない期待と高揚に目を輝かせながら彼を見つめ、かみ締めるように口を開いた。
「……マスター。 これで俺は――」
「ああ、それはもう良い」
「はい、マスター」
その言葉と共に私の瞳から、表情から、そして心からも一切の感情が抜け落ちる。
素早く体勢を変え、片膝を立ててマスターに跪く。
「合格条件その2。 人格を作り出して演じながら戦うこと。 戦士としても役者としても君は一流になれるな……。 全く、売り出したら幾らになることか。 惜しい商品を逃した。」
クスクスと楽しげに笑うマスターを無感動な瞳で見上げた。
「さあ、これからの事について話そう。 少し休んでから、私の部屋においで」
「かしこまりました、マスター」
抑揚の無い声で返事をするとマスターは満足気に頷き背を向けて歩き去っていった。
それを見送り私もふらりと立ち上がる。
もう一度、眩しいばかりの空を見上げると何故か涙が出てきた。
私は生まれた時から奴隷で、商品として育てられて、そして今日、奴隷の中で尤も優れた物『S-01』だけが受けられる最終試験を合格し――晴れて自由の身となった。
私はそっと涙を拭うとマスターの――おそらくは最後の命令に従うため自分の部屋へと歩きだす。
ああ、ああ、ああ――今日、これから、私は――人間になるのだ。
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