高校2年
第四十八話 理不尽さから
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た。
やっとの思いでの課題達成に、選手たちからは声が漏れる。背中を押して走った選手たちは、皆一様に地面に倒れこんだ。
パチ、パチ、パチ。
その様子を見守っていた浅海が拍手し、歩み寄ってくる。その表情は実に満足げであった。
「よーし、課題達成だな。約束通り、今日はこれで終わりだ。」
浅海は満足げな顔をしているが、選手の方はと言えば疲労困憊である。皆恨めしそうな視線を浅海に送っており、その視線に浅海も気がついていた。これは“意図”を説明してやらねばなるまい。浅海は話し始めた。
「お前らは今、チームスポーツの本質を体感したはずだ。それは、全員で目的を達成せねばならない、チームでの結果以外に何も評価基準はない、という事だ。全員でタイムを切れ、という要求を達成するにあたって、やれ誰が遅いとか、やれ俺はキチンとタイムに入っているのにとか、そのような文句を垂れるのは野球の試合に負けて“俺はヒット3本打ったのに”とか“あそこであいつがエラーしたから”とか、そんな文句を言うのと同じだ!そういう文句を言いたくなる気持ちも、もちろん分かる。でも、何を言った所で負けは負け。そして、“チームの負けは自分の負け”なんだ!」
選手達は浅海の言葉に聞き入った。
浅海が言っているのは、選手達も元から分かっているような事。
しかし、400m走の苦しさの実感を伴う今は、その言葉に更に重みが感じられる。
「今日、この練習を始めるにあたって、私は理不尽な練習をやる、と言った。……理不尽だよなぁ。自分がいくら頑張っても、足を引っ張るやつが一人でも居れば、自分の頑張りすら否定されるんだから。」
浅海はフッと笑みを見せた。
「……でもな、理不尽なものなんだよ、チームスポーツは。本来他人同士の連中が、無理矢理一つの目標に向かって頑張らなきゃいけないんだから。そして、自分一人ではできない事を、他人に託さないといけないんだから。……理不尽で当たり前なんだ。そこを越えなきゃいけないんだよ。……その点、背中を押して走るというのは、良い発想だったぞ。やっとお前らも、チームになったんじゃないか?」
選手達が一斉に翼の方を見た。
枡田はニヤニヤと笑って、親指を立てる。
翼は照れながら、気づいていない振りをした。
はっきり言って、気分は良かった。
「走れない奴に無理に走らせると怪我をするから、もうこういう練習はしないけれども、今日はこの理不尽な練習で学んだ事をしっかり覚えておくんだぞ。いいなっ!?」
「「「はい!」」」
この日の練習の事は、三龍野球部の全員の胸に深く刻まれる事となる。
合理性だけでなく、理不尽さから学ぶ事もある。
そこを越えた時に、一皮剥けた選手が居る。
いや、選手ではなく、一皮剥けた人間が。
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