高校2年
第四十八話 理不尽さから
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、一つの考えが閃いた。
やってできる事かはわからないが、やらないよりはマシだろう。
翼は覚悟を決めた。
「5、4、3、2、1、スタート!」
京子の号令で、4度目のスタートが切られる。
翼はその瞬間、最後尾に回った。
ドタドタとおぼつかない足取りで走る飾磨の丸い背中が見える。その背中に、両手をついた。
「!?」
突然の感触に驚いた飾磨は後ろを振り返ろうとするが、翼は大声でそれを跳ねつけた。
「前見ろ!走れ!」
飾磨はそれを聞いて、真っ直ぐに前を見て走る。
翼はその背中を押した。物理的に押した。
重い。普通に走るより息が上がる。しかし、泣き言は言ってられない。
翼と飾磨は集団から少し遅れた。
しかし、さっきの一本と違って、大きく引き離されはしない。翼の力を助けにした飾磨は、遅いなりに速く走っていた。
「1分!1、2、3、4……」
グランド一周のゴール地点で、京子が高い声でタイムを読み上げる。最後、ゴール地点までの直線。翼も胸が苦しかった。やはり、飾磨の背中は重い。押して走る自分の心臓が裂けそうだった。最後の力を振り絞る。ゴールを駆け抜ける。
「6、7……」
「あ"ーーっ」
結局、ほんの僅かにタイムに届かなかった。
翼は声を上げて、その場に倒れこむ。
あと少し、あと少しだったのに。
「好村……」
「お前……」
飾磨の背中を押して走った翼に、他の選手からの驚きの視線が注がれる。その驚きの視線の中で、枡田が下位グループに歩み寄った。
「上里、次は俺と剣持がお前の背中押したるわ。ほやさけ、一生懸命走れや。」
「えっ?俺も?」
枡田に勝手に名前を出された剣持も渋々といった表情で、枡田と一緒に足の遅い同級生の後ろにつく。
「じゃあ、清瀬は俺が押すわ。俺は速いさけな。びっくりしてコケんなよ。」
チーム一の俊足・鷹合もその動きに続いて、鈍足の選手の後ろについた。
「おい、好村」
仰向けに寝転がってノビている翼に、渡辺が声をかけた。
「次の一本は俺と美濃部が飾磨を押すけん、お前は普通に一人で走りや。ちゃんとタイムに入るんやぞ。」
「…………」
翼は渡辺の頼もしい顔に、言葉こそ出せなかったが、しっかりと頷いた。
「5、4、3、2、1、スタート!」
京子の号令が5度響く。
今度は、足の速い選手が、鈍足の選手の後ろにしっかりと付き、その背中をしっかりと押して走った。1分5を余裕で切る選手は居なくなった。走る選手の列が、縦に短くなった。
全ては、全員でタイムを切る為。
全員でタイムを切りさえすれば、横一列でゴールインでも何ら問題はない。
「1分!1、2、3、4、5……」
結局、ギリギリで全員がゴールを駆け抜け
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