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打球は快音響かせて
高校2年
第四十八話 理不尽さから
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ラン二ングシューズに履き替えた。



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「1分!1、2、3、4……」

浅海が命じたのは、400m走の反復だった。
年末までの時期に、持久力を高める中長距離走を多く取り入れるのは、昨年と同じ。
400m走にも、選手は皆慣れたものだった。
慣れてもキツいメニューではあるが。

「…………」

400m走は二班に分けて行われ、走ってない方の班の選手が、相方のタイムを表に書き込んでいく。個人タイムが設定されており、個人のノルマタイムを超過する、もしくは、直前の一本から極端にタイムが落ちるとペナルティである。

パン!

浅海が、ダッシュの本数も増えてきた所で手を叩いた。選手達が、来たか、とばかりに覚悟した顔でそちらを見る。

「ここからは、練習の方法をちょっと変えるぞー!」

浅海はそう叫ぶと、タイムの記入表を回収した。

「ここからは、個人のタイムは問題にしない!この表も不要だ!ただ!」

浅海は“集団”を指差した。

「お前ら全員が、1分5を切ること!この課題さえクリアできたら、今日のトレーニングは終わりだぞー!」

浅海は簡単だろ、と言わんばかりの視線を部員達に送った。が、当の部員達は、この要求が殊更に厳しいものである事に、言われずとも気づいていた。

個人タイム制だと、“自分なりの頑張り”がそのまま評価される。つまり、1分で走れる奴の1分5と、本来1分20秒はかかる奴の1分15では、後者の方が評価されるのだ。野球部は陸上部ではない。単純なタイムの速さより、どれほど自分を追い込めているかを評価の基準にしているのは至極正しい事だろう。

しかし、これが“全員で1分5を切れ”などと言われてしまうと、どうなるか。楽々クリアできる者も居るだろう。しかし、できない者も居る。そして、全員がそのタイムを切らないと、練習は終わらない。
顔を青ざめさせたのは、鈍足の飾磨だった。


呼吸を整えるインターバルが終わり、京子の声でスタートが切られる。たった一本。たった一本だけタイムを切れば終わりだから、普段は1分5秒を切れないような選手でも一生懸命走る。

「1ぷーん!1、2、3、4……」

結局、殆どの選手がタイム以内にゴールを駆け抜ける。速い奴は余裕を持ってゴールインする。だが

「5、6、7……」

飾磨など、足が遅い連中の何人かは、惜しいタイムでゴールに帰ってきた。
しかし、これでは、課題達成ではない。
もう一本である。

「惜しい!惜しいぞ!」
「次いける次!」

割と余裕でタイムを切った渡辺や安曇野が、ギリギリで間に合わなかった選手に言葉をかける。
一方で宮園は両膝に手をつき、俯いていた。

(次いける訳がねぇだ
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